92歳作曲家・水野修孝、34年ぶり再演「交響的変容」に込めた平和への願い
水野修孝「交響的変容」34年ぶり再演 多様性示すカオス

多様性示すカオス 超大作「交響的変容」が34年ぶり再演

日本語オペラ「天守物語」などで知られ、92歳を超えてなお創作を続ける作曲家・水野修孝さん。今月10日、東京で演奏時間3時間超の大作「交響的変容」が34年ぶりに再演される。多彩な音楽要素を内包したこの「史上最大の交響曲」には、「音楽は豊かでなくちゃ」という強い思いが込められている。

戦争体験が作品に 音楽への情熱は捨てきれず

千葉県八千代市の自宅で取材に応じた水野さん。ピアノが置かれた部屋は楽譜やCD、ビデオテープで足の踏み場もないほど。「最近は作品の整理で忙しいから」と穏やかに語る。自身の作品資料を日本近代音楽館(東京都港区)に寄託するのに積極的で、「そうしないと残らないからね」と笑った。

徳島県に生まれ、2歳から千葉県内で育った水野さん。母がピアノを弾いていた影響で幼い頃から音楽に親しみ、自身が始めたのは中学1年の冬、戦後間もなくのことだった。「戦争中はピアノなんて弾ける雰囲気じゃなかった」。空襲で自宅が焼かれ、学校も破壊された。グラマン戦闘機の機銃掃射の恐ろしさは今も鮮明で、こうした体験が作品にも反映されている。

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「音楽じゃ食えないと思って」地元の千葉大に進学し法律などを専攻したが、音楽への情熱は捨てきれず、3年次から大学オーケストラの指揮を始める。「やっぱり音楽をやりたい」と卒業後、東京芸術大学に入学した。

26年かけ「交響的変容」が生まれるまで

芸大では、集団即興に挑んだ団体「グループ音楽」に所属。チェロを弾き、独自の音楽観で知られた小杉武久さんのバイオリンとデュエットするなどした。種々の楽曲を自ら演奏することで「音を実感できた。あの経験は作曲にすごく生きている」と振り返る。一方、千葉大オケには卒業後も関わり、40年にわたってさまざまな作品を振り続けた。「おかげで、オーケストラに非常に詳しくなった」。

作曲を柴田南雄さんらに学びつつ、クラシック以外のジャンルにも興味を示す。ジャズピアニスト田代ユリさんやサックス奏者渡辺貞夫さんに師事。米国留学も経験し、ジャズやロックへの理解を深め、確信した。「やっぱり禁欲的な作品はつまらない」。豊穣な音楽の下地が育まれていった。

クラシックで影響を受けた作曲家に、今年生誕100年を迎えたドイツのヘンツェを挙げる。親しみやすさと現代性が両立した作風は確かに通じる点がある。大規模作品の代名詞であるマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」にも大いに刺激を受け、「あれを超えるものを」と構想されたのが「交響的変容」だ。380を超える自作の中で唯一、委嘱を受けずに自発的に取り組んだ。1962年から26年かけ、1987年に全4部が完成した。

信条は「良いサウンドが出ること」

1992年の初演時は、演奏者718人、指揮者10人を要した超大作。第1~3部だけでもオーケストラの全合奏にビートリズム、和太鼓など多様な音楽が満載だ。さらに第4部では6群の混声合唱も加わり、大規模に展開する。無調の前半で歌われるのは核への脅威と原爆投下への追体験。「人類が今必要としている言葉」として書かれた歌詞が現在も通用してしまう国際情勢には、複雑な感情も抱いている。

後半は調性が主となり、東南アジア諸国の民謡が6群別々に歌われるほか、シラーの詩やミサ曲、法華経などを通して人類愛や無常観を表現。カオス的な音の中に、平和への願いや多様性の尊重も感じさせる。「今、再演される意義は大きいのでは」と問うと、「そう思ってもらえればうれしい」とほおを緩めた。

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作曲で最も心がけていることは「良いサウンドが出ること」。それは聴衆が楽しめる音楽だ。だからこそ、古典に偏りがちなクラシックの演奏会でも、再演される作品が多いのだろう。東京芸術劇場(東京・池袋)での「交響的変容」の演奏会は完売した。「私の作品には若い人も関心を持ってくれるようだ」との自負もある。

来年1月には日本オペラ協会が「天守物語」を再演する。「うれしいが、他にも良い作品があるから、それもやってほしい」。最近、交響曲第6番が完成し、「次は7番」と意欲は衰えない。