埼玉県幸手市で生まれ育った中井亮仁さん(32)は、「地元の風土を生かしたワインを造りたい」という夢を胸に、今年から市内の遊休農地でワイン用ブドウの栽培をスタートさせました。一般的なブドウ産地とは気候も土壌も異なる環境ですが、10年後を目標に、栽培から醸造まで一貫して手がけるワイナリーの開業を目指しています。
苗木に宿る希望
「小さな実がついているでしょう。順調にいけば、来年には収穫できるかもしれません」と、きれいに整えられたブドウ畑で、腰の高さまで成長した苗木を優しく見つめる中井さん。3月に植えた約500本の苗木は、新たな挑戦の象徴です。「道のりは長いですが、恐れずに挑戦し続けたい」と力強く語ります。
故郷への恩返し
中井さんは幸手市で生まれ、幼少期から田畑に親しんできました。自然の中で遊び、友達とあぜ道を駆け回った日々が、農業への関心を育みました。大学時代に米穀店でアルバイトを経験し、次第に農業を志すようになります。
就職活動中、偶然目にした山梨県笛吹市のワイナリーに魅力を感じ、就職を決意。ワインの味さえよく知らなかった中井さんですが、一つ一つの作業にこだわる姿勢に惹かれました。「もう幸手には戻らない」と覚悟を決め、ブドウ栽培に没頭。失敗を重ねながらも農業の面白さにのめり込み、6年が経過しました。
転機は一昨年、休暇で故郷に戻った時でした。「人口が減り、商店街はシャッター街になっていました。育ててもらった古里に恩返しをしたい」と強く思ったのです。
挑戦の軌跡
山梨のワイナリーを退社し、昨年から準備を開始。幸手市は主要なブドウ産地とは気候や土壌が異なり、成功の保証はありませんでしたが、「学んだ技術で勝負する」と決意しました。
昨年、幸手市と気候の似ている加須市で試験栽培を行い、無事に成功。今年、幸手市の休耕農地を借り受け、本格的な栽培を始めました。3月には市民約100人を招き、苗木を植えるイベントも開催し、地域を巻き込んだ活動が広がっています。
未来への展望
来秋には初めての収穫を迎える予定で、まずはジュースに加工。その後、外部のワイナリーに委託してワイン醸造を始め、酒造免許を取得して本格生産に移行したい考えです。
「目指すのは、みんなに愛されるワイン。例えば、子どもたちが体験会で苗木を植え、成人して初めて飲むワインがそのブドウで造られたものだったら、最高ですよね」と中井さんは夢を膨らませます。
プロフィール
中井亮仁さんは1994年、幸手市出身。幼少期から大学2年までを同市で過ごし、大学卒業後に山梨のワイナリーに就職、6年勤務。2025年から幸手市でブドウ栽培に挑んでいます。大切にしている言葉は、元上司で醸造家の福嶋正人さんの「グラスの向こう側のお客様をイメージしろ」という教えです。



