三菱重工、独自の円筒形SOEC技術でグリーン水素製造効率を向上
再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」製造において、次世代技術として注目される「SOEC」(固体酸化物形電解セル)の開発で、三菱重工業が独自の円筒形部材を採用した装置の実証を進めている。同社は2020年代後半の市場投入を目指しており、水素製造の効率向上とコスト削減を両立させる技術として期待が高まっている。
円筒形セルで製造効率を向上
グリーン水素の製造技術としては、純水を分解する「固体高分子膜(PEM)型」やアルカリ溶液を使用する「アルカリ型」が社会実装を進めている。これに対しSOECは、600度以上の高温水蒸気を電気分解する方式で、水は高温になるほど低い電圧で分解できる特性を活かし、同じ電力量でより多くの水素を製造できる利点を持つ。
しかし、SOECは運転管理の難しさや内部劣化への対応などが課題となっており、欧米企業を中心に開発が進められている。三菱重工は、主流の平板型セルではなく、独自に開発した円筒形セルを採用。この円筒形セルは平板型に比べて頑丈で水素の密閉性が高く、より多くの水素を製造できる設計となっている。
同社水素技術推進室の鳥井俊介室長は、「円筒形セルの製造には当初苦労があったが、現在は製法を確立し量産に成功している」と説明する。この技術の基盤となったのは、都市ガスなどから水素を取り出して熱と電気を生成する「固体酸化物型燃料電池(SOFC)」で、SOECはその逆反応を応用したものだ。
高砂水素パークで実証試験を実施
三菱重工は、兵庫県高砂市にある「高砂水素パーク」において、2024年から400キロ・ワット級のSOECデモ機を稼働させている。本来は5メガ・ワット級に対応可能な設計だが、現在は基本的な動作確認を主眼としてセル数を半分に減らして運用。これまで安定した運転を続けており、目立った性能変化は確認されていないという。
同社は、投入した電気エネルギーに対する得られた水素エネルギーの割合を示す「総合効率」で90%を目標として掲げている。水素製造能力を高めるためにはセルにより多くの電流を流す必要があり、電流増加時の性能や耐久性を検証する試験にも取り組んでいる。
セル単体だけでなく、数百本のセルを束ねたカートリッジの耐久性確認も必要であり、周辺機器と組み合わせたシステム全体での長期実証も計画されている。鳥井氏は「時間はかかっても信頼性の確保は欠かせない」と強調している。
コスト削減とサプライチェーン全体での需要獲得を狙う
現状では、SOECは高温水蒸気に対応する必要があるため、PEM型やアルカリ型に比べて装置の製造コストが割高となっている。しかし、部材に貴金属を使用しておらず、インフレの影響を受けにくい点が強みだ。同社は、装置を大型化することで製造コストを抑えられると見込んでいる。
さらに、SOECでは水蒸気生成に必要な熱を外部から得られれば運用コストも引き下げられるため、排熱の多い工場や発電所への併設が有望視されている。高砂水素パークでは、水素製造に加えて火力発電の燃料に水素を混合する「混焼ガスタービン」の技術開発も進められており、水素活用のサプライチェーン全体での需要獲得を目指す戦略が描かれている。
三菱重工のSOEC技術は、グリーン水素製造の効率化と持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な一歩として、今後の進展が注目される。



