満腹でござる倫太郎食日記第17回:茶飯に毒の危機、医者の卵が診断
第17回:茶飯に毒の危機、医者の卵が診断

「あいつ……」思わず声を漏らした。総髪をひとつにまとめた男。いや、なにより白の小袖に、紺のたっつけ袴だ。程ヶ谷宿の立場にいた若い武家だ。いつ追い抜かれたのだろう。思い当たるとすれば、鶴見川を越えてすぐだ。

倫太郎は茶店に入って名物の米饅頭を食っていた。米粉で作った饅頭は、あっさりとして美味だった。ついでに草鞋の紐を結び直していたので、その際に先に行かれたのかもしれない。

若い武家は、突っ伏している男の傍に座って、何かしていた。白髪頭の従者が荷を解く。出てきたのは、薬籠だ。なんと用意のいいことか。なるほど、医師の弟子なら頷ける。家督が継げない次男三男ではよくあることだ。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

若い武家は、男を仰向けにしながら、不安そうに覗き込む万年屋の主人と女将に何か訊ねていた。主人と女将が困惑した顔で首を振る。

「毒だぞ! 茶飯に毒だ!」客の誰かがいきなり叫んだ。それに呼応して、わっと蜘蛛の子を散らすように人々が膳を蹴り飛ばし、悲鳴を上げながら、こちらに向かって殺到してくる。焼き魚や煮物、茶飯が、蹴散らされ、店内に散乱した。ああ、なんてもったいない。

「そこのお武家さんも、食うんじゃないぞ」頰に傷のある旅装束の中年男が倫太郎に向けて重々しくいった。そうなのか? やはり食うてはいかんのか? 口中に唾液が溢れてくるのを堪え、倫太郎は箸を置いた。

しかし、本当に毒であれば、事は急を要する。いまはここにいる者たちを店の外に出してはいけないと、倫太郎は直感した。

「待て! 皆、止まれ、鎮まれ。店からひとりも出るんじゃない!」思わず倫太郎は声を張り、三和土に降り、両腕を広げた。「まだなにもわからぬまま、騒ぐな。まずはこの場に留まれ。そこのお医者の卵殿、診立てはどうだ」そう訊ねるや、

「どこの御家中か知らんが、即座の判断に感謝する。それから、私は医者の卵ではない。武州金沢米倉家家臣、友田雄馬だ」矢のような鋭い視線が飛んできた。金沢米倉家家臣だ、と?

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ