2026年秋冬パリ・ファッションウィーク、「わずかな違和感」が鍵に 静かな更新のムードが全編を貫く
パリ・ファッションウィーク、「わずかな違和感」が鍵に

2026年秋冬パリ・ファッションウィーク、「わずかな違和感」が創造の鍵に

2026年秋冬コレクションのパリ・ファッションウィークでは、装いに「わずかな違和感」を差し込む試みが顕著に見られた。これは奇抜さや過剰さとは一線を画するアプローチであり、正統派のテーラリングや伝統的な素材、ブランドの歴史的文脈を尊重しながら、そこにほんの少しのズレ、不完全さ、あるいは引っかかりを加えることで、服に現代らしい緊張感を宿らせる手法だ。今季のパリを一貫して流れたのは、そんな静かな更新のムードであった。

セリーヌ:端正さの中の「ほころび」が独特の魅力を生む

その空気を端的に示したのが、セリーヌのコレクションだ。テーラードの上にレザージャケットを重ね、シンプルな装いにあえて大ぶりなネックレスを合わせるスタイルは、極端ではないのに確実に目に残る印象を残した。創作の核にあるのは、どこか少しだけズレていること、不完全であることだという。デザインを担当するマイケル・ライダーは「乱雑で複雑で、幾層にも重なる人の内面が、服の奥からにじみ出てくる瞬間が好き」と語る。端正でありながら、どこか整いすぎていないバランスが特徴で、その「ほころび」が、今季のセリーヌに独特の魅力を与えていた。

サンローラン:正統性の中に潜ませた現代的な変化

サンローランもまた、正統性のなかに巧みな変化を潜ませた。ショーの冒頭ではテーラードスーツを連続して披露し、フィナーレでは創業者イヴ・サンローランが60年前に発表して話題を呼んだ女性用タキシード「ル・スモーキング」を現代的に再解釈したルックを提示した。その硬質な流れの合間に差し込まれたのが、ボリュームのあるファーのアウターであり、とりわけ印象的だったのはベルトの位置だ。ウエストではなく、あえて腰よりも低い位置で巻くことで、クラシックな輪郭に今の空気をにじませることに成功していた。

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ディオール:ブランドの歴史を「いま着る服」へと翻訳する技術

ディオールでは、ジョナサン・アンダーソンが本流のデザインや素材を踏まえながら、巧みに輪郭をずらす試みが見られた。ブランドを象徴する歴史的アイテム「バー・ジャケット」はニットで仕立てられ、すでにモードの世界では定番となっている日本製デニムのパンツには、きらびやかな刺繡が施された。さらに、創業者クリスチャン・ディオールの傑作であるジュノン・ドレスを思わせる花びら状の意匠や、ブランドの一時代を築いたジョン・ガリアーノを想起させるくるみボタンの多用も目を引いた。単なる引用ではなく、ブランドの歴史を「いま着る服」へと翻訳する技術に説得力があった。

エルメスと新人デザイナーの挑戦

エルメスは、レザーという得意素材を基盤としながら、鮮やかで若々しい「ひっかかり」を見せた。また、新人デザイナーたちも、この「わずかな違和感」というテーマに沿った挑戦を続けており、ファッション界全体が静かな変革の時を迎えていることを感じさせる。各ブランドが伝統と革新の狭間で模索する姿勢は、2026年秋冬のパリ・ファッションウィークを特徴づける重要な要素となっている。

全体を通じて、過剰な装飾や劇的な変化を避け、むしろ微細な違和感を通じて深みと現代性を表現する傾向が強まった。これは、消費者の嗜好がより洗練され、内面の複雑さを反映するファッションを求める時代の流れを反映しているとも言える。パリ・ファッションウィークは、単なるトレンド発信の場から、文化的・哲学的な問いを投げかける場へと進化を続けている。

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