バイオリニストの前橋汀子(ていこ)が、「ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集」(ソニー)をリリースした。2024年に右肩の手術を受け、約7か月のブランクを経て復帰後初めて収録したCDとなる。「これほどバイオリンを弾かない時期はなかった」という未経験の事態を乗り越え、80歳を超えた今も演奏家としてさらなる進化を遂げようとしている。
ブラームスのソナタに新たな挑戦
手術前に収録したベートーヴェンのバイオリン・ソナタ全集を昨年リリースしてから、1年後の発売となった。ブラームスの第1番と第2番は自身初の録音。「昔から収録したいと思っていたが、なかなかできなかった。自分の集大成として弾きたかった」と満を持して臨んだ。
右肩腱板断裂からの復帰
長年にわたる演奏活動の影響からか、右肩腱板の断裂が判明した一昨年の夏、「90歳まで弾きたい」と手術を決断した。施術後しばらくは右手が上がらず、楽器を持てない日々が続いた。「復帰できるか不安もあった。ただもう一度ステージに立ち、演奏したかった」と振り返る。辛抱強くリハビリに取り組み、後遺症もなく回復。「手術後初めて楽器を弾いたときはドキドキした」という。
療養期間中の音楽探求
療養期間中は「弾くことはできないけれど、音楽には触れていたい」と、名手の過去の演奏やブラームスの交響曲、歌曲などを聴き、作曲家へのイメージを深めた。「第3番はかなり昔から弾いている曲だが、テンポ感や音の感じ方など、新しい発見があった」と語る。
三曲の異なる魅力
「雨の歌」の愛称を持ち明朗だが郷愁を誘う第1番、穏やかで明るい曲調の第2番、激しさの中に陰影を感じさせる第3番。それぞれ違う曲調に取り組み、「弾けば弾くほど深くブラームスの魂の奥をのぞきこむような」感覚を得たという。
全国リサイタルと今後の展望
来月は全国でリサイタルを開催。ロシアの作曲家プロコフィエフやフランスの作曲家フランクのバイオリン・ソナタのほか、小品も交えて披露する。「一日でも長く弾きたいし、聴いてくれるお客さんがいるのはありがたいこと」と音楽への思いがますます深まっている。
尊敬してやまない旧ソ連のバイオリニスト、ナタン・ミルシテインから学んだことは今でも息づいている。「ホールの響きに合わせて指遣いを変え、音色を作っていくことは大事。今では当たり前のことだが、当時初めて教わった時は驚いた」。円熟した音楽性だけでなく、当意即妙な演奏にさらに磨きがかかった姿を見せてくれるだろう。
東京公演は6月28日、サントリーホールで午後2時開演。ピアノは今回のCDでも共演したヴァハン・マルディロシアン。問い合わせは(電)03・3234・9999。



