異常気象で農業が北上、京野菜やトマトが北海道や高地で栽培拡大へ
近年、夏の猛暑が常態化し、農作物への被害が拡大していることを受け、生産を北日本や高地などの冷涼な地域に移す動きが加速しています。この傾向は、栽培の適地が大きく変わる可能性を示唆しており、農業の未来を左右する重要な転換点となっています。
九条ねぎの北海道進出、夏場の栽培限界を突破
京都市の農業法人「こと京都」は、2026年4月から北海道伊達市で京都の伝統野菜「九条ねぎ」の栽培を開始します。約10ヘクタールの土地を購入し、初年度は4ヘクタールを使用して約100トンの収穫を見込んでいます。九条ねぎは比較的暑さに弱く、生育の適温は15~25度とされていますが、京都市では7~8月の平均気温が30度前後に達し、昨年は最高気温35度以上の猛暑日が47日も記録されました。高温による生育不良で収量維持が困難となり、夏場の栽培は限界に達していると判断されました。
同社は当初、年間を通じて京都市内で栽培していましたが、2022年から夏場の生産を中止し、府の中北部地域や岩手県などに分散させてきました。今後も暑さの影響が広がると予想されるため、北海道への進出を決断。山田敏之社長(63)は「夏場の栽培はもう限界だと感じる。高品質でおいしいネギを守るためだ」と強調しています。伊達市は北海道南西部に位置し、夏場(6~9月)の平均気温は20度前後と冷涼で、積雪が少ないことから、夏場の生産拠点として道外の農業法人から注目を集めています。
ミニトマトも北海道へ、産地分散が避けられない現実
三重県内でミニトマトを生産する農業法人「浅井農園」も、2026年1月下旬に建設費約13億円を投じて伊達市に約1.6ヘクタールの栽培用ハウスを完成させました。夏場の生産拠点として年間約340トンの収穫を見込んでいます。同社では、県内の農場で4~5年前から夏の暑さにより、良い花が咲かない「着花不良」や果肉が極端に少ない「空洞果」などの悪影響が目立つようになりました。浅井雄一郎社長(45)は「年々暑さが過酷になり、10年、20年後を見据えた時に産地分散は避けられなかった」と語り、気候変動への対応の緊急性を訴えています。
高地栽培のメリット、都市近郊での新たな試み
新たな栽培地を「高地」に求める動きもあります。兵庫県加古川市の農業法人「ゼブラグリーンズ」は、2025年に大阪府能勢町の標高約600メートルの集落に約1.3ヘクタールのトマト用ハウスを建設し、栽培を開始しました。周辺の平野部より夏の気温は5~6度ほど低く、トマトの成長に重要な夜間の温度も適温(20度未満)近くまで下がります。柿坪俊彦代表(49)は「都市近郊なので、消費地に近く商品の輸送費が抑えられる」と、高地栽培の経済的メリットを説明しています。
専門家の見解、産地リレーと自治体の役割
農業に詳しい日本総合研究所の三輪泰史氏は、新たな適地を見つけ、途切れなく出荷する「産地リレー」で農業を守る動きが今後も広がると指摘します。一方で、「農地移転が難しい個人・零細農家は農業をやめる可能性もあり、高温耐性品種の開発や栽培作物の転換が進むように自治体がリーダーシップを発揮する必要がある」と強調し、気候変動への包括的な対策を求めています。
高温障害の深刻化、気象データと農作物への影響
気象庁によると、1990年代以降、国内各地で高温傾向が続き、2025年夏(6~8月)の平均気温は3年連続で過去最高を更新しました。猛暑日は延べ9385地点で記録され、40度以上を観測したのは延べ30地点に上りました。農林水産省の2024年の調査では、トマトは全国の4~5割、ミカンは3~4割の地域で高温障害とみられる影響が報告されています。同省は、リンゴやミカンなどの主要な果樹作物の栽培適地が、温暖化の影響で将来的に北方や内陸地へ移動すると予測しています。
具体的な事例として、北海道ではサツマイモの栽培面積が増加し、秋田県でも栽培実証に取り組んでいます。また、関東以西で観賞用葉ボタンの着色が不良となり、生花市場が山形県の産地に増産を求めた事例も報告されており、気候変動が農業全体に及ぼす影響は多岐にわたっています。



