コメ在庫はあるのに下がらない小売価格…流通現場では「値崩れ」に戦々恐々
秋の「新米相場」の見通しは不透明なまま。昨秋の高騰から半年が経過し、流通過程でコメが余る状況が続いているにもかかわらず、小売価格はなかなか下落しない。静かに続く「令和の米騒動」の渦中で、生産から販売までの関係者は複雑な心境を抱えている。
農家が事業を続けられる米価水準は「2万円台前半」
茨城県内有数の米どころ・筑西市では、今年2月から秋の新米の売買価格の探り合いが始まっていた。農業法人を営む杉山善昭さん(41)は、外食大手の営業マンから「今年の新米は、1俵(約60キロ)2万円台前半からのスタートになるかな」との相場観を聞き、胸をなで下ろした。
杉山さんは今年、安定的な収入を求めて「2万5000円の長期契約」をいくつかの業者に持ちかけたが、反応は鈍かった。生産者の間では「今年の新米は2万円を割るのではないか」との悲観論が広がる中、営業マンの一言は心を軽くしたという。
専門家によると、農家が事業を続けられる米価の水準は「2万円台前半」とされ、これは5キロの小売価格で3500円〜4000円に相当する。
増産でもうけたいが、供給増が値崩れを招く懸念
昨年は「令和の米騒動」で新米価格が高騰し、地元JAの買い取り価格はコシヒカリの1等米が1俵3万4500円と、前年から8500円も上昇した。JAや集荷業者が高値で買い集めた結果、店頭価格も高止まりし、コメがだぶつく状況が生じた。
農林水産省のデータでは、今年1月末のうるち米の民間在庫は約321万トンと前年より4割も多い。2年続いた好況から一転、今年は価格下落が見込まれている。
集荷を巡る熱狂は既に冷めているが、一部の生産者にはその余韻が残る。農水省によると、今年の主食用米の作付面積は大幅な増産となった昨年と同程度が見込まれており、杉山さんは「今の相場だと、転作して補助金をもらうよりも、主食米を目いっぱい作った方がもうかる」と理解を示す。
しかし、「供給が増えれば値崩れを招くのは明らか。生産調整の枠を守ってほしいが、考え方は人それぞれですし…」と複雑な心境を漏らす。
「在庫の損切りが進めば、値崩れがさらに進んでいく」
不安定な米価への懸念は、消費者に近い流通関係者にも広がっている。茨城県内の米穀店経営者の男性(70)の元には最近、「コメを買ってくれ」と持ちかけてくる農家が相次いでいる。
JAや業者が抱える「民間在庫」に加え、農家も相当数の在庫を抱えているとみられ、男性は「在庫の損切りが進めば、値崩れがさらに進んでいく」と危惧する。
さらに、イラン情勢の緊迫化による肥料代や燃料代の高騰も、米価の不安定さに拍車をかけかねない。何がきっかけで相場が一変するかわからず、男性は「コメ相場は一寸先は闇ですよ」とぼやく。
農政の二転三転でコメ価格の行方は不透明
昨年10月に発足した高市早苗政権は、石破茂政権下で進められていたコメ増産を生産調整に回帰させた。「令和の米騒動」に翻弄され不安を抱える農家に配慮する形で農政は二転三転し、コメ価格の行方も不透明なままだ。
こうした現状に、東京都内の流通関係者は「農家が作れないような価格にはしてほしくないが、今の価格でははっきり言って消費者がかわいそう」とつぶやく。
秋の新米相場を前に、生産者、流通業者、消費者すべてが不安を抱える中、コメ価格の安定に向けた対策が急がれている。



