サンフランシスコの海の幸が凝縮 チョッピーノの伝統と魅力
カニやムール貝、エビなどの新鮮な魚介類を、濃厚なトマトベースのソースでじっくり煮込んだ「チョッピーノ」。これはシーフードシチューとも呼ばれる、米国カリフォルニア州サンフランシスコを代表する名物料理です。観光客で賑わうレストランを避け、地元住民に愛される隠れた名店を訪れることで、本場の味とその歴史に迫りました。
老舗レストランで味わう伝統の味
1977年創業の「アンカー・オイスター・バー」は、サンフランシスコで長年親しまれてきた老舗レストランです。ここで提供されるチョッピーノは、注文を受けてから厨房で調理が始まるため、常に出来立ての温かさと新鮮さを味わうことができます。
料理の主役は、地元産のカニ「ダンジネスクラブ」です。濃厚なトマトソースに浸かった脚を取り出し、殻を割ると、肉厚でふっくらとした身が現れます。弾力のある歯ごたえと、甘く優しいスパイスの香りが口いっぱいに広がります。トッピングのガーリックパンをソースに浸して食べると、香ばしさがさらに増し、料理全体の風味が引き立ちます。
厨房で繰り広げられる調理の舞台裏
厨房では、たっぷりのトマトにタマネギ、赤ピーマン、ニンニクを加えて仕込んだ「マリナーラソース」をフライパンで温めるところから始まります。そこに隠し味のスパイス「スターアニス」(八角)をまぶし、主役のダンジネスクラブに加え、アサリ、ムール貝、タラ、エビなどの魚介類を投入します。湯気が立ち込めると同時に、潮の香りが漂い、海の幸の豊かさを感じさせます。
オーナーのローズアン・グリムさん(76歳)は、おいしさの秘密についてこう語ります。「材料を一つずつ加えて、風味を重ねていくんです。フライパンにふたをして、全てが調和するまでじっくり煮込むのがポイントですよ」
イタリア人漁師の船上めしが起源
グリムさんの祖父は、イタリアの港町アマルフィから移住した漁師でした。サンフランシスコ生まれのグリムさんが育った家では、いつもコンロの上にチョッピーノの鍋が置いてあり、学校から帰るとパンに赤いソースを付けて食べていたそうです。
チョッピーノの起源は、19世紀後半にサンフランシスコに定住したイタリア人漁師たちの船上めしに遡ります。彼らが船にトマトソースの鍋を持ち込み、ダンジネスクラブなどの魚介を出し合い、刻んで煮込んだのが始まりとされています。名前の由来には、イタリア語なまりの「チップ・イン(出し合う)」や、刻むことを意味するイタリアの方言「チュッピン」の派生など、諸説あります。
グリムさんは伝統のレシピを守り続け、「古き良きサンフランシスコの象徴のような味なんですよ」と話します。
地元産食材とワインのマリアージュ
チョッピーノには、チェリーやクランベリーなど赤い果実をイメージした米カリフォルニア州ソノマ産の赤ワインがよく合います。口に含むと、渋味と同時にフレッシュな酸味を感じ、料理の濃厚な味わいを引き立てます。
ダンジネスクラブの和名は「アメリカイチョウガニ」で、主に米アラスカ州からカリフォルニア州までの太平洋岸に分布しています。商業漁獲は19世紀半ばに始まり、カリフォルニア、オレゴン、ワシントン州の2023年度の漁獲量は計約24,000トンに上ります。
サンフランシスコでは例年、11月中旬から6月末頃までが漁期となります。観光客でにぎわう歴史的な港町フィッシャーマンズワーフでは、停泊中の漁船の漁師から直接ダンジネスクラブを購入できることもあります。また、ダンジネスクラブの身をほぐし、マッシュポテトやマヨネーズを混ぜ込んで焼く「クラブケーキ」も人気の料理です。
チョッピーノは、単なる料理ではなく、サンフランシスコの歴史と文化、そして海の恵みを凝縮した一品です。老舗レストランで味わう伝統の味は、訪れる人々に深い感動と満足をもたらしています。



