伝統の木桶醸造を守り続ける弓削多醤油の4代目
埼玉県坂戸市で100年以上の歴史を誇る老舗醤油メーカー「弓削多醤油」。その4代目社長である弓削多洋一さん(59)は、伝統的な木桶を使った醤油造りの技術と味を後世に伝えるため、日々奮闘を続けている。幼い頃から家業に親しみ、1998年に急きょ4代目を継承して以来、独自のこだわりで醤油造りに取り組んできた。
急な継承と有機醤油への挑戦
弓削多さんが4代目として会社を任されるきっかけとなったのは、先代である父・善一さんが醤油の発酵タンクから落下する事故で大けがを負ったことだった。当時を振り返り、「あまりにも急なことで、工場を動かすことにとにかく必死だった」と語る。製造経験が少ない中、県食品工業試験場(現・埼玉県産業技術総合センター北部研究所)の職員らから醤油造りを学び、試作段階だった有機醤油の製造と販売を軌道に乗せた。
2000年ごろに発売された有機醤油はメディアで紹介され、売り上げは徐々に拡大。2003年には、熱殺菌などを施さない「生しょうゆ」の販売も開始した。生きた菌が残るため要冷蔵だが、醤油本来のうま味と甘味、香りを楽しめる一品として人気を集めている。
醤遊王国で広がる醤油の魅力
醤油造りの過程を多くの人に知ってもらおうと、2006年に日高市に設立したのが「醤遊王国」だ。ガラス越しに木桶を使った醤油造りの様子を見学できるほか、醤油造り体験や飲食コーナーも設けられ、今年で20周年を迎える人気施設となっている。弓削多さんはここで、搾りたてを瓶詰めした「吟醸純生しょうゆ」などを紹介し、醤油の奥深さを伝えている。
現在、醤遊王国には創業当初から使われているものも含め、44個の木桶が保管されている。弓削多醤油では、木桶の製作を長年かけて続けており、「木桶を使って醤油を造る店は減っていて、技術や設備を残せるかは課題」と語る。
100周年を機に新たな木桶を製作
2023年に創業100周年を迎えた同社は、新たに飯能産の杉を使った9千リットルの木桶を製作し、今年3月に完成させる予定だ。「同じ気候や風土で育った県内の木材と原材料は相性がよく、さらにおいしい醤油ができるのでは」と期待を寄せる。初代から受け継がれる家訓「商売に羽織を着せろ」を胸に、客に対して真摯に向き合い、正直な商いを心がけている。
弓削多さんは「醤油は安心して口に入れられるものでなくてはいけない。調味料なのでうまくなければ意味がない」との信念を守り続け、大手醤油メーカーとは一線を画す伝統製法にこだわる。千葉大学工学部卒業後、都内の流通会社で約2年間、醤油の原料などの営業を担当した経験を活かし、進化の歩みを止めない。



