国立市の暮らしを記録する佐伯安子さん90歳「古いことのすごさ」を半世紀伝える
くにたちの暮らしを記録する会会長の佐伯安子さん(90歳)は、国立市の谷保地域で半世紀近くにわたり、民具の収集や明治・大正生まれの古老からの聞き書き活動を続けてきた。その活動を通じて、佐伯さんが強く感じるのは「古いことってすごいこと」という思いだ。
高度経済成長で失われかけた暮らしの証し
佐伯さんは1959年、お寺の三男だった夫と結婚して谷保に移り住んだ。当時、家には水道やガスが通っておらず、井戸から水をくみ、まきと石炭で風呂を沸かす生活だった。周囲には茅葺きの家も残っていたが、高度経済成長の波が押し寄せ、田畑が高速道路や団地に変わり始めた。
機械化が進む農家では、昔から使われていた民具が邪魔者扱いされるようになった。娘が小学2年生の時、農家が庭先で民具を燃やしているのを見て、佐伯さんは人々の生きてきた証しが失われることにショックを受けた。PTAの仲間と農家を回り、民具500点を譲り受けて展示会を開催した。
民具収集と古老からの聞き書き活動
1979年、国立市が「民具調査団」を結成すると、佐伯さんは翌年から参加。手ぬぐいとかっぽう着姿で農家を訪ね、物置に置かれた千歯扱きや脱穀機、養蚕用の「まぶし」などのホコリを落とし、交渉して民具をもらい受けた。集めた民具は5000点に上る。
民具収集の際、農家のおばあちゃんが「にーだんご」を作ってくれることもあった。小麦を団子状にこねて汁に入れるこの郷土料理は、食糧難の時代に子どもたちを飢えさせないための愛と知恵が詰まっており、佐伯さんは深く感動した。
1985年、活動は「くにたちの暮らしを記録する会」に名称を変え、古老から明治から昭和初期の暮らしを聞き取る活動に移行した。明治30年代から大正生まれの古老たちは記憶力が抜群で、物事をよく覚えていた。佐伯さんは、昔は伝達手段が少なかった分、頭で記憶する力が鍛えられたと推測する。
貧しい時代の知恵と団結力
古老たちからは、昭和初期まで続いた「代参講」の話も聞かれた。村人がお金を出し合い、くじで選ばれた代表者が神社まで遠出して全員分のお札をもらって帰る習慣で、代表に選ばれることはハワイ旅行のように喜ばれたという。神仏に頼る純粋さや御利益を共有する知恵、非日常の旅を楽しむたくましさに、佐伯さんは感銘を受けた。
貧しい時代を生きてきた古老たちからは、愚痴はほとんど聞かれなかった。お祭りなどの晴れの日を楽しみに、日常は朝から晩まで真っ黒になって働き、地域や親戚と団結して生きる人間的な強さがあった。
現代へのメッセージ
現在、佐伯さんは国立市内の小学3年生を対象に、タライでの洗濯体験などの民具案内を行っている。昔の生活に戻ることはできないが、貧しくても一生懸命生きた人々や民具から「古いことのすごさ」を知ることで、現代の豊かな時代を生きる人々の参考になればと願っている。
佐伯さんは静岡県御殿場町(現・御殿場市)生まれ。親戚の旅館を手伝っていた際、東宝の映画スタッフだった夫がロケで宿泊したのがきっかけで結婚した。古老からの聞き書きをまとめた全6巻の「国立の生活誌」を編集し、会報「にーだんご」を毎年発行している。茅葺き屋根の「国立市古民家(旧柳沢家住宅)」の移築復元にも尽力し、生け花の先生や国立市茶道連盟会長も務める。



