「一緒に随分と稼いだからな」
金ボタンは手に取り、それをじっくりと眺めた。上質な素材で作られているため、まだ形は崩れていなかったが、襟巻きの翼と同様に、その光沢はやや褪せてしまっていた。
「これかぶっておどってたの」
「またラジオか。ラジオばっかり聴くな。新聞を読め」
「むずかしい」
「当たり前だ。簡単なことばっかりやっていると馬鹿になるぞ」
くすり、と笑い声がした。見ると、兎耳がカフェの入り口から覗き込んでいた。「道理だが、ずいぶん若い頑固親父殿だね」とくだけた口調で言う。
「こちらは当ホテルオーナーのお嬢様です」と金ボタンは砂糖煮の娘の背中に触れ、離れるよう軽く押した。
「へえ」
「あいにくですが、こちらはもう閉店です。ルームサービスはまだやっておりますので……」
「新聞をね、今朝読みそこねてしまったから」
兎耳の目線の先で、砂糖煮の娘がボックス席の赤いソファに新聞を何紙も並べていた。新聞はすべて綺麗にアイロンがかけられ、細い木の棒で挟まれている。砂糖煮の娘はその一つを手に取り、口を半びらきにして眺めた。
「もう数時間もすれば新しいものをお部屋にお届けしますよ」
砂糖煮の娘が単語を一文字ずつ読みあげる。兎耳が追うように繰り返すと、砂糖煮の娘は楽しくなったのか、より大きな声をあげた。
「軍事裁判」と兎耳が両手をひらいて言った。連合国による軍事裁判が始まったという内容の記事だった。
「ぐんじさいばん!」と砂糖煮の娘も繰り返す。
「お嬢さんには少し難しい言葉だね」



