ドイツ観念論の哲学者ヨーゼフ・カール・シュティーラーによるシェリングの肖像画(1835年、ノイエ・ピナコテーク蔵)が象徴するように、シェリング(1775~1854)は長らくカントやヘーゲルの影に隠れてきた。しかし、生誕250年を迎えた2025年、『現代思想』と『思想』の2誌が特集を組み、関連研究書も相次いで刊行されるなど、再評価の機運が高まっている。研究者はこの現象を「シェリング・ルネサンス」と呼び、その背景を探る。
シェリング再評価のきっかけ
『現代思想』は2025年、総勢29人の執筆陣による400ページ超の臨時特集号を刊行した。同誌では、シェリングが2000年代以降に生まれた二つの哲学の潮流に影響を与えたことが紹介されている。一つは、英国の哲学者イアン・ハミルトン・グラントらが連なる「思弁的実在論」であり、もう一つは、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルが主な論客である「新実在論」だ。
これらの潮流は、20世紀のポストモダン思想が世界を考察する確たる基盤を失い、人間から見た解釈や人間との関係性に依存する哲学に陥ったと批判する。その上で、人間を前提とせず事物そのものに迫る哲学を再興しようと試み、人間と「自然」の関係について独自の考察を展開したシェリングに、新たな思索のヒントを見いだそうとしている。
シェリングの哲学的意義
シェリングは、18~19世紀を生きたカントやヘーゲルといったドイツ古典哲学の巨人に比べ、解説書も少なく、一般にはあまり知られていない。かつてはカントからヘーゲルに至る哲学史の「つなぎ」として扱われることさえあった。しかし、哲学者の浅沼光樹氏は、「現代思想に多大な影響を与えているカントとヘーゲルを乗り越えるヒントが、ほぼ同時代に両者と格闘したシェリングにはある」と指摘する。
シェリングの思想の核心は、自然と人間を切り離さない点にある。彼は自然を単なる客体ではなく、主体的な生成のプロセスとして捉え、人間もその一部であると見なした。この視点は、現代の環境問題や技術と人間の関係を考える上で、新たな洞察をもたらす可能性がある。
シェリング・ルネサンスの背景
シェリング再評価の背景には、現代哲学が直面する課題がある。ポストモダン思想の相対主義や人間中心主義への批判が高まる中、シェリングの自然哲学は、人間と自然の連続性を重視する点で、新たなパラダイムを提供する。思弁的実在論や新実在論は、シェリングの「自然」概念を再解釈し、人間の認識を超えた実在へのアクセスを模索している。
さらに、シェリングの思想は、科学技術の進歩や気候変動といった現代的な問題に対しても示唆に富む。自然を支配の対象ではなく、共に生成するパートナーとして見る視点は、持続可能な社会の構築に貢献する可能性がある。
シェリングの再評価は、哲学史の見直しにとどまらず、現代思想の新たな方向性を示すものとして注目される。今後の研究の進展が期待される。



