サッカーW杯監督特集:名将たちの采配と戦術
サッカー・ワールドカップ(W杯)は華やかな選手の活躍に目が行きがちだが、そのスターたちを動かしているのは代表監督だ。人心掌握にたけた知将、斬新な戦術を編み出す奇才、百戦錬磨の老将――。各チームを率いる名物指揮官を紹介する(文中のコメントはロイター)。
5大リーグ制覇の知将:カルロ・アンチェロッティ(ブラジル、67歳)
ブラジル代表の練習を見守るアンチェロッティ監督。その手腕にブラジル国民は期待している。監督としてこれほどの実績を持つ人物はいない。イングランド、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスの欧州5大リーグすべてで、自らが率いたチームをリーグ優勝に導いてきた。ただし、代表監督を務めるのは今回が初めてだ。しかも、指揮するのはW杯で史上最多の5度の優勝を誇るサッカー王国。ブラジルが迎える初の外国人監督でもある。最後に優勝したのは2002年の日韓大会。イタリア人指揮官にかかる期待は巨大だ。就任は昨年5月。南米予選は5位でどうにか出場権を確保した。10月の日本戦で2点差から逆転負けするなど順風満帆ではないが、照準は本大会に合わせているはずだ。先月発表された26人のメンバーには、代表最多得点記録保持者ながらケガがちの34歳のFWネイマールを入れた。「彼は初戦に間に合う」と話すが、好調のFWジョアンペドロを外した選考に批判も出た。それでなくてもスター選手ぞろいのカナリア軍団。ただ、自我の強い英才たちをまとめる手腕の確かさはクラブでの実績が物語っている。ブラジル連盟の信頼は厚く、既に30年次回W杯までの契約延長を決めた。早くもポルトガル語で記者会見に臨んでいる「ドン・カルロ」がブラジルを6度目の頂点に導くことができれば、W杯史上初の「外国人監督が指揮するチームの優勝」という歴史が作られる。
堅実采配、有終の美へ:ディディエ・デシャン(フランス、57歳)
フランス代表のエースFWエムバペ(左)とデシャン監督。2大会ぶりの優勝を狙う。サッカー界で選手、監督の両方でW杯優勝を経験している3人の傑物のうちの1人だ。1998年の地元フランス大会では、主将として初優勝のトロフィーを掲げた。豊富な運動量と安定したプレーで、チームを支えた名MFだった。現役引退後は、長く活躍したユベントス(イタリア)などでの指揮を経て、2012年に代表監督に就任。初のW杯となった14年ブラジル大会は、準々決勝でドイツに敗れたが、18年ロシア大会はチームを20年ぶりの優勝へと導いた。4年後のカタール大会も決勝まで進み、アルゼンチンにPK戦の末に敗れたものの、チームの安定した力を示した。その采配は、現役時代のプレー同様に極めて堅実だ。フランスは優勝候補の筆頭といえる存在。特に攻撃陣のタレントの豊富さは圧倒的だが、「ほかにも候補は6~7チーム挙げられる」と浮かれたところはない。今大会を最後に14年間に及ぶ代表監督生活に終止符を打つと明言している名将は、有終の美を飾れるだろうか。
戦術巧みな奇才:マルセロ・ビエルサ(ウルグアイ、70歳)
クーラーボックスに座るおなじみのスタイルで戦況を見つめるウルグアイのビエルサ監督。伝統国を上位に導けるか。母国アルゼンチンを率いた2002年日韓大会、チリ代表を指揮した10年南アフリカ大会に続いて、異なる国を率いて3度目のW杯での采配を振るう。「エル・ロコ(変人)」のニックネームが示すように、そのサッカーは独特だ。欧州各国のクラブを経て、18年にイングランド2部にあたるチャンピオンシップのリーズの監督に就任すると、2季目にはプレミアリーグへの昇格を果たした。相手に猛烈なプレスをかけ、ボールを奪うとスピーディーな攻撃を仕掛けるスタイルは衝撃的だった。ウルグアイ協会が、お隣のライバル国出身の指導者を代表監督に招いたのも、人口約340万人の小国が勝ち上がるすべを授けてほしいと願ったからだろう。現在の代表には、レアル・マドリード(スペイン)で活躍するバルベルデら中盤に質の高い選手がそろい、南米予選は4位で突破した。「この仕事はW杯で終わる」と大会後に辞任する意向だが、本大会では、伝統国を上位に導くことを狙う。
最長老、初出場導く:ディック・アドフォカート(キュラソー、78歳)
人口15万人のキュラソーを率いるのは、W杯史上最年長となるアドフォカート監督だ。人口約15万人のカリブ海に浮かぶオランダ領の島がキュラソー。歴代W杯出場チームで最も人口が少ないその代表を指揮するのは、歴代のW杯代表監督の中でも最年長の老将だ。1994年米国大会では、監督としてオランダ代表を8強に導いた。2006年ドイツ大会では韓国を指揮。オランダの男性としては小柄で「小さな将軍」のニックネームを持つが、エネルギッシュな動きは年齢を感じさせない。24年1月に就任した彼が率いたキュラソーは、カナダ、米国、メキシコという有力国が参加しなかった今大会予選を無敗で切り抜けて初出場を決定。今年2月に家族の健康問題を理由に辞任したが、5月に問題が解決したとして復帰した。今大会はドイツ、エクアドル、コートジボワールという強国ぞろいの組で、苦戦は必至。それでもベテラン指揮官は、「我々を破るのは簡単ではない。何事も不可能ではない」と楽観的で、準優勝3回の母国の監督とは違う立場での采配を楽しみにしている様子だ。



