英国学者が分析する東京パラリンピックのレガシー実態
2021年に開催された東京パラリンピックから、すでに4年半の歳月が経過しました。この大会が社会にもたらした「レガシー(遺産)」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。パラリンピックの歴史と社会への影響に詳しい、英国のスポーツ社会学専門家であるイアン・ブリテン博士に、独占インタビューを行いました。
レガシーは大会開催で完成するものではない
ブリテン博士は、パラリンピックのレガシーについて、次のように定義しています。「オリンピック憲章は、その使命の一つとして『有益なレガシーを、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する』と規定しています。パラリンピックに当てはめれば、公共交通機関のバリアフリー化や、障害がない人々の障害者に対する理解の深化なども含まれるでしょう」と述べています。
さらに博士は、重要な指摘を加えました。「ただし、レガシーは大会開催によって完成するものではありません。大会を契機として、その後も教育や啓発活動を通じて、数十年単位で継続的に改善し続けなければならないものです」と強調しました。つまり、一時的な取り組みではなく、持続可能な社会変革が求められているのです。
東京のバリアフリー率は世界トップクラス
世界各国のパラリンピック開催都市を訪れた経験を持つブリテン博士は、東京パラリンピックのレガシーを、次のように評価しています。「東京のインフラ面でのバリアフリー化は、他国と比較して非常に進んでいると言えます。具体的には、エレベーターやスロープなどを設置してバリアフリー化した鉄道駅の数は、東京都内では約98%に達していると発表されています」と、その高い数値を挙げました。
この数字は、2024年の開催都市であるパリや、2012年の開催地ロンドンと比較すると、際立っています。博士によれば、「パリでは、300を超える地下鉄駅のうち、開催時のバリアフリー化は1割程度に留まっています。また、ロンドンも約270駅のうち、バリアフリー化されているのは3割程度です」とのことです。東京の取り組みが、いかに先進的であるかが分かります。
「心のバリアフリー」が今後の課題
しかし、ブリテン博士は、課題も指摘しています。「一方で、日本では、障害がない人々による、障害がある人々への理解があまり進んでいないと感じます」と、率直な意見を述べました。つまり、物理的なバリアフリーは進んでいるものの、人々の意識や態度における「心のバリアフリー」が、まだ十分ではないという見解を示したのです。
この点について、博士は具体的な例を挙げながら、「パラリンピック後に行った障害者へのインタビュー調査では、当事者たちが日常的に感じている本音が浮き彫りになりました。インフラの整備だけでは、真の共生社会は実現できません。障害者理解を深める教育や、社会全体での対話が不可欠です」と説明しました。
真のレガシー完成に向けた道筋
ブリテン博士は、東京パラリンピックのレガシーを完成させるためには、以下のような長期的な取り組みが必要だと提言しています。
- 学校教育や職場での障害者理解プログラムの拡充
- メディアを通じた障害者へのポジティブなイメージ醸成
- バリアフリーインフラの維持管理とさらなる改善
- 障害者自身の声を社会政策に反映させる仕組みの強化
博士は最後に、「パラリンピックは、単なるスポーツイベントではなく、社会変革の契機です。東京の高いバリアフリー率を誇りつつも、『心の壁』を取り除く努力を続けることで、初めて真のレガシーが完成するでしょう」と締めくくりました。2026年を見据え、東京がさらなる進化を遂げることが期待されます。



