乳幼児死傷事件で無罪判決が相次ぐ背景
乳幼児の死傷を巡る事件において、「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」や「虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)」の理論に基づいて立件された被告が、無罪となるケースが近年増加している。これらの理論は、急性硬膜下血腫や眼底出血、脳浮腫といった頭部の一定の症状から虐待があったとみなす医学的根拠として用いられてきたが、その信頼性に疑問が投げかけられている。
日弁連が指摘する捜査上の問題点
日本弁護士連合会(日弁連)の刑事弁護センターは、捜査機関が医師の意見を過剰に重視して立件する傾向を強く問題視している。同センターの報告書は、SBSやAHTの理論について「科学的・論理的な検討を加えることが必要不可欠だ」と指摘し、懐疑的な見方を示している。
具体的な統計によれば、2003年3月から2022年5月までの間に、AHTやSBSが疑われた事件の判決では、64件中23件で無罪が言い渡されている。この数字は、約36%という高い無罪率を示しており、理論の適用に重大な課題があることを浮き彫りにしている。
最近の無罪判決の具体的事例
最近では、大阪高等裁判所が2歳の養女への傷害致死罪に問われた父親について、「暴行による頭部の損傷を認める証拠はない」として逆転無罪を言い渡した事件が注目を集めた。最高裁判所は今月3日付で検察側の上告を棄却し、この無罪判決が確定した。
さらに、福岡地方裁判所も今月3日、生後11カ月の長女への傷害致死罪に問われた母親に対し、持病のてんかんにより長女を落下や転倒させた可能性があるとして無罪を宣告している。これらの判決は、医学的証拠の解釈や因果関係の証明において、慎重な判断が求められることを示している。
今後の課題と社会的影響
このような無罪判決の相次ぎは、乳幼児虐待事件の捜査や裁判において、以下の点を再考する必要性を提起している。
- 医師の意見を盲目的に信頼するのではなく、科学的根拠の厳密な検証を徹底すること。
- SBSやAHTの理論について、国際的な研究動向も踏まえた継続的な見直しを進めること。
- 無実の被告を誤って起訴するリスクを軽減し、公正な司法手続きを確保すること。
社会全体として、乳幼児の保護と冤罪防止の両立を図るため、専門家や関係機関による対話と協力が不可欠となっている。



