震災を超えた命の絆 福島から鴨川へ避難のアザラシ、子孫が健やかに暮らす
東日本大震災の発生直後、福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」から緊急避難したアザラシの子と孫が、鴨川シーワールド(千葉県鴨川市)で元気に暮らしている。被災地から生き残った動物たちを受け入れ、命をつないできた歴史は、震災の記憶を未来へと紡ぐ物語となっている。同館の関係者は「動物たちの姿を通して、震災のことを次世代に伝えていきたい」と語る。
震災直後の緊急避難と命の救出
暖かな日差しが差し込む鴨川シーワールドのプールでは、ゴマフアザラシの「みらい」(雌、12歳)が気持ちよさそうに泳ぎ回っている。時折水面から頭をのぞかせ、のんびりと日光浴を楽しむ姿は、訪れる人々の心を和ませている。
同館の館長・勝俣浩さん(63歳)は、震災当時にアシカやアザラシ、鳥類の飼育を担当する課長を務めていた。あの日、大きな横揺れが施設を襲ったが、幸いにも被害は展示プールの擬岩が崩れる程度で済んだ。しかし、津波が東北の街を飲み込むニュース映像を目にし、「大変なことが起きている」と強い衝撃を受けたという。
勝俣さんが特に気にかけたのは、日頃から交流のあったアクアマリンふくしまの状況だった。同施設は揺れでガラスが割れ、津波による冠水で電気・機械室が機能停止。停電により水温や水循環の管理が不可能となり、飼育されていた魚など20万匹の生物の大半が命を落としていた。
震災発生から5日後の3月16日、勝俣さんはいわき市に入った。水槽のガラスが大きく割れ、死んだ魚を取り除く作業が続く中、アザラシやトド、セイウチなどは無事だったものの、エサが尽きる危機が迫っていた。「命を救わないと」という思いから、余震が続く状況下で一心不乱に動物たちをおりに入れ、鴨川へと連れ帰った。
2日間で6種18頭・匹の海獣や海鳥を搬出し、上野動物園や葛西臨海水族園など各地の施設と分担して受け入れた。この中には、妊娠中のゴマフアザラシ「くらら」も含まれていた。
くららとその子孫、希望を紡ぐ物語
くららは出産直前の長距離移動を経て、4月7日に無事に出産。生まれた赤ちゃんは愛くるしい姿で瞬く間に人気を集め、水槽前には「被災したアクアマリンふくしまから緊急避難してきました」と説明するパネルが設置された。
復旧が進んだ6月、くららと赤ちゃんは福島に戻り、アクアマリンが再オープンした7月には、赤ちゃんに「きぼう」と名付けられた。「震災から立ち直っていく東北の希望の光となるように」との願いが込められた名前だ。
各地で暮らしていた避難動物も順次「帰郷」し、発災から1年後の2012年3月には、最後の1頭だったトドが鴨川から福島に帰還した。勝俣さんは「動物たちが福島に帰り、被災した子供たちを元気づけている」と思う度に、胸に喜びがこみ上げたという。
アクアマリンの担当者は「困難の中で動物たちの命を守ることができたのは、鴨川シーワールドの温かい支援のたまもの。深く感謝している」とコメントしている。
続く交流と未来へのメッセージ
両館の交流はその後も続き、2014年には「鴨川で命をつないだくららの子供だから」と、きぼうの妹である「みらい」がアクアマリンから鴨川にやってきた。2013年生まれのみらいは、「被災地で誕生した新しい命。明るい未来の象徴」として名付けられた。
みらいは2024年、息子のロイを出産。好奇心旺盛で遊び好きな性格は、訪れる人々に愛嬌を振りまいている。また、今月末にはシーワールドで暮らすトドが、アクアマリンに「嫁入り」する予定だ。
勝俣さんは「震災があったから生まれた交流。絆を深めていきたい」と語り、「被災した動物の子や孫の展示を通して、『3・11』の裏に動物たちの命のリレーがあったことを知ってもらいたい」と強調する。鴨川シーワールドで暮らすアザラシたちは、震災の記憶を静かに伝えながら、未来への希望を紡ぎ続けている。



