阪神大震災被災者が考案した「防災スポーツ」で楽しく訓練、政府も普及に本格着手
スポーツや遊びの要素を取り入れ、災害時に役立つ知識や行動力を身につける防災訓練が、今、大きな注目を集めています。従来の訓練が「形だけ」とのイメージを脱却し、楽しみながら防災意識を高めることを目指すこの取り組みの一つが、「防災スポーツ」です。これは、1995年の阪神大震災を経験した被災者が考案したもので、政府も2025年度から普及に向けた活動を本格的に開始しました。
東日本大震災から15年、釜石市で防災スポーツイベント開催
東日本大震災から15年を前にした7日、津波で大きな被害を受けた岩手県釜石市のスタジアムで、「防災スポーツ」と銘打ったイベントが開催されました。親子連れら数十人が参加し、災害現場でがれきや家財運搬に使われる手押し一輪車にボールを載せ、ジグザグコースを走る「キャットサイクルレース」や、水難救助を想定して重しのついたカエルの人形をロープで引っ張り上げる「ウォーターレスキュー」などに挑戦しました。参加者たちはスタッフの助言を受けながら、「難しい」「予想していたより重くて大変」と声を上げつつ、競技に励みました。
岩手県遠野市の小学4年生の男児(10歳)は、「災害が起きた時のことを意識することができた」と感想を語り、体験を通じて防災への関心が高まった様子でした。
阪神大震災の経験から生まれた7種類の競技
このイベントを企画したのは、スポーツコンサルティング会社「シンク」(東京)です。同社の社長、篠田大輔さん(44歳)は、スポーツ関連会社勤務を経て2014年に起業し、防災訓練とスポーツを組み合わせることで知識と体力の両方を身につけられると考え、7種類の「競技」を考案しました。篠田さんは、1995年の阪神大震災で兵庫県西宮市で被災し、自宅で家具や本に埋もれた弟と妹を助け出した経験から、災害時にとっさに動ける力の重要性を痛感しました。「スポーツ感覚で楽しんでやれば、防災意識も体力も高められるはずだ」と強調しています。
同社は2018年から自治体や学校、企業に出向き、こうしたイベントをこれまでに140回以上開催しており、全国的に広がりを見せています。
遊びの要素を加えた体験型訓練の広がり
遊びの要素を加えた体験型訓練を展開する企業も増えています。イベント会社「IKUSA」(東京)は、防災クイズに挑戦して突破すれば「防災ヒーロー」入団証をもらえる親子参加型イベントなど、「あそび防災プロジェクト」と名付けた取り組みを2019年以降実施しています。
また、スポーツ庁も2025年度から「PLAY BOSAI」と銘打ち、スポーツを通じて防災を学ぶ体験型防災教育プログラムを開始しました。自分が背負える重さの非常持ち出し袋を作り、実際に歩いて運んでみる「ウエイトチャレンジ」など、様々な「種目」を用意し、東京都や宮城県など約10か所で実施してきました。2026年度以降も拡大させる方針で、担当者は「災害時に必要な判断力や体力を、意識せずに養えるような教育モデルを構築し、全国に普及させたい」と話しています。
防災訓練の「形骸化」課題と今後の展望
防災訓練では、長らく「形骸化」が問題視されてきました。防災イベントなどを手がける企画運営会社「TSP太陽」(東京)が昨年12月に実施した調査によると、職場での訓練を生かせないと感じる理由として、45%が「形式だけになっている」と回答しています。担当者は「訓練を実施するだけのことが多い。自発的に対応できる力を身につけられるようにすることが必要」と指摘します。
防災教育やその改革に取り組むNPO法人「減災教育普及協会」(横浜市)の江夏猛史理事長は、「大切なのは、本当に命を守る行動につながるかどうかという視点。災害時に役立つ力を育てるには、楽しむだけでなく、まず参加者が訓練の目的を十分理解することが重要だ」と述べ、効果的な訓練の在り方を提言しています。
東日本大震災を受け、文部科学省は2012年に「学校防災マニュアル作成の手引き」を公表し、実践的な訓練に努めるよう求めました。これに応え、抜き打ち訓練を実施する学校も増えています。また、南海トラフ地震で最大34メートルの津波が想定される高知県黒潮町では、夜間の地震発生に備え、町内の施設を活用した有料の宿泊型夜間避難訓練を2023年度から実施するなど、地域に根差した取り組みも進んでいます。



