熊本地震から10年、絵本と音楽で記憶を継承する福岡のNPO法人の挑戦
熊本地震10年、絵本と音楽で記憶を継承するNPOの活動

熊本地震から10年、絵本と音楽で記憶を継承する福岡のNPO法人の挑戦

熊本地震から10年になるのを前に、福岡市博多区に拠点を置くNPO法人「えほん楽団」が、被災した子どもたちの体験を題材にした絵本の制作を進めています。この絵本は、3月に熊本市で開催される復興支援コンサートで披露される予定で、代表の前野美千代さん(56)は「絵本や音楽の力で地震の記憶を次の世代に引き継いでいきたい」と語っています。

活動の背景とこれまでの歩み

えほん楽団は、2011年7月に前野さんが北九州市の小学校で絵本の読み聞かせボランティアをしていた母親たちと前身団体を結成しました。東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市や石巻市を訪れて演奏を披露するなど、音楽を通じた支援活動を続けてきました。2016年4月の熊本地震では、熊本県内に支部を設立し、小学校や仮設住宅などで公演を20回以上行い、募った義援金を手渡してきました。

クラリネット奏者でもある前野さんは、活動の中で「音楽で寄り添おうとする難しさ」を感じたこともあると振り返ります。宮城県の仮設住宅で唱歌「ふるさと」を演奏した際、高齢女性が「もう古里はないのに……」と声を震わせた経験から、「音楽で人を傷つけてしまうこともある」と気づき、活動の在り方を深く考えたといいます。

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被災体験と音楽の力への信頼

前野さん自身、熊本地震で熊本市東区の実家が被災し、両親が避難所生活を余儀なくされました。また、講師を務めていた音楽教室も建物の倒壊リスクで閉鎖に追い込まれ、「被災すると、音楽を聴く気力も時間もなくなる」と実感したと語ります。それでも活動を続けてきたのは、仮設住宅で涙を流して演奏に耳を傾けてくれる人々の姿を見て、「一音でも届けば、癒やされる方もいる。次に進める力にもなるはず」と音楽の尊さを再認識したからです。

絵本制作の詳細と被災者の声

絵本のタイトルは「熊本地震から10年 あのとき、そしてこれから」で、地震を経験した子どもたちの生の声や被災地との交流に光を当て、記憶の風化を防ぎ語り継ぐことを目的としています。中心となるのは、震度7を観測した熊本県益城町で被災した高校2年生、林田貫汰さん(17)の体験です。当時小学2年生だった林田さんは、寝室の本棚が倒れる中、難を逃れたものの、自宅が大きく傾き、2か月の車中泊を経て仮設住宅で暮らしました。

「心がからっぽになった」という状況から、前野さんと出会い、楽器の指導を受け、コンサートに参加するようになるなど、音楽に支えられて成長してきた姿が描かれます。林田さんは「地震の教訓を引き継ぎ、災害時に生かせたらいいなと思う。絵本を通じて『熊本地震を忘れないで』という願いと、支えてもらった優しさのおかげで成長できたことを演奏で伝えたい」と話しています。

絵本の構成と今後の展開

絵本は3部構成で、第1部では林田さんの体験、第2部では前野さんの長女が石巻市などを訪れた際に書いた作文を軸に災害の教訓を、第3部では教え子の姉妹が避難生活を経てピアノに触れた喜びを表現します。イラストは熊本出身の漫画家・いわさきふみさんが担当し、3月上旬の完成を目指しています。

コンサートでは、絵本をスクリーンに映し、楽団メンバーの演奏に合わせて朗読を行います。前野さんは「音楽をできる環境への感謝を込め、『災害を懸命に乗り越え、ここまで来られてよかった』と感じてもらえるコンサートにしたい」と意気込んでいます。

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コンサートは3月29日午後2時から、熊本市の有明楽器健軍本店で開催されます。絵本はコンサートで販売予定で、価格は未定です。入場料は一般2000円、高校生以下1000円で、問い合わせはえほん楽団(080・3224・8835)までとなっています。