現業職の賃金上昇が加速、一方でエッセンシャルワーカーは取り残される現実
現在の労働市場において、現業職(ブルーカラー)の報酬が事務職(ホワイトカラー)を上回る上昇傾向を示している。特にタクシー運転手や電気通信技術者などの職種では、過去5年間で20%以上の賃金上昇が確認されている。これは、従来「稼げない仕事」と見なされてきた現業職が、「稼げる仕事」へと劇的に変化していることを示している。
公定価格に縛られるエッセンシャルワーカーの苦境
しかし、すべての現業職が同様の恩恵を受けているわけではない。介護福祉士や看護師など、国が定める公定価格がある職種は、市場で需給が逼迫しているにもかかわらず、賃金上昇の上限があるため、上昇率が低いままとなっている。リクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は「ブルーカラーの中で差が生まれつつある」と指摘する。
古屋氏は次のように述べている。「市場では需給が逼迫して賃金が上がる局面なのに、上限があるため、介護福祉士や看護師の賃金は上がっていない。国家資格を取得し、介護の世界に入った若者が、賃金差を理由に地域のホテルへ転職してしまうといった話が山ほどある」。
ホワイトカラー優位の「経路依存性」と現業職の実態
従来、ホワイトカラーの賃金がブルーカラーを上回っていた理由について、古屋氏は「経路依存性」による可能性を示唆する。「ホワイトカラーの報酬が高くなる明確な理由は大してなく、昔から高かったからというイメージに影響された部分がある」と分析する。
さらに、古屋氏は自身の経験を踏まえて次のように語る。「私自身、かつて官僚として働いていたが、実際に電気工事の現場を経験してみると、配電図を読み解く高度な判断力、一歩間違えれば死に直結する緊張感、肉体的な技術が同時に求められる非常に難しい仕事だと痛感した。官僚の仕事より難しいと思った」。
社会維持に不可欠なエッセンシャルワーカーの重要性
古屋氏は、エッセンシャルワーカー不足が深刻化している現状を「危険な状態だ」と警鐘を鳴らす。「どんなにオフィスの仕事がかっこよく見えても、現業職に支えてもらわないと私たちはゴミ一つ捨てられない。社会生活を維持できているのはエッセンシャルワーカーがいるからだ」と強調する。
デフレが続いた30年間は、市場賃金と公定価格の乖離が小さかったため、現行制度が機能していた。しかし、インフレと人手不足による賃金上昇が起きている現在、賃金の決め方を見直す必要性が高まっている。古屋氏は「賃金で報いていくのは当然の第一歩だと考えている」と述べ、制度改正の緊急性を訴えている。
この状況は、労働市場の構造変化を示すと同時に、社会の基盤を支えるエッセンシャルワーカーへの適正な評価が急務であることを浮き彫りにしている。今後、政策対応が求められる重要な課題となっている。



