SNSで相次ぐいじめ動画の拡散、専門家が「第三者の私的制裁」に警鐘
児童や生徒が暴力をふるう様子を撮影した動画が、「いじめの告発」としてソーシャルメディア上で拡散される事例が全国各地で相次いでいる。これらの動画には顔や氏名が明らかにされたり、誤った情報が付随したりするケースが多く、「許せない」という怒りの感情が拡散を加速させている実態が浮き彫りとなっている。
大阪の事例と誤情報の拡散
今年1月中旬、大阪市内の岸壁で市立中学校の男子生徒が男子児童の首を絞めている様子を映した動画がX(旧ツイッター)に投稿された。生徒の顔がはっきりと映っているこの動画は繰り返し転載され、投稿から3日間で300万回以上閲覧されたものも確認されている。動画には「加害者を特定して人生を終わらせろ」「中学校を特定した」など、加害者側を追い詰めるようなコメントが大量に寄せられた。
事態を重く見た大阪市教育委員会は1月20日、報道陣に対して事実関係を説明。昨年11月に岸壁で発生した暴行事案を同月中に把握し、いじめ防止対策推進法に基づく「いじめ重大事態」と認定して対応していたことを明らかにした。市教委は「被害者が精神的苦痛を感じている」として、動画の拡散中止を強く呼びかけた。
しかしSNS上では、誤った情報も広く流布した。暴行を行った男子生徒が在籍する中学校について「過去にいじめによる自殺者を出している」との投稿がX上で出回り、100万回以上閲覧された。読売新聞の取材に対し、市教委と中学校は「そのような事実は一切ない」と明確に否定している。
全国で続く動画拡散の波
同様の動画拡散は他地域でも発生している。1月には福井県内の高校で2023年に撮影されたとされる暴行事案の動画が広がり、暴行を受けた側の生徒が拡散を望んでいないとして警察に相談する事態に発展した。
典型的な拡散構図としては、スキャンダルなどを日常的に投稿するアカウントが発信源となり、匿名のアカウントを持つ多数のユーザーが転載を繰り返すパターンが目立つ。
専門家が指摘する問題点とリスク
SNSの特性に詳しい国際大学の山口真一教授(計量経済学)は次のように分析する。「拡散してしまう人の大半は面白半分ではなく、正しいことをしていると考えているようだ。しかし、動画はしばしば切り抜かれており、事実関係は公的機関の調査を待たなければ正確にはわからない。正義のつもりで拡散した行為が、誰かを深く傷つけてしまう可能性があるという自覚を持つことが極めて重要である」。
いじめ解決を支援するNPO法人「ユース・ガーディアン」(東京)の阿部泰尚代表は、動画拡散の背景について「学校や教育委員会に通報しても、しっかり対応してくれないのではないかという生徒や保護者の不信感が根底にある」と指摘する。
一方で、拡散された動画がきっかけで事案が表面化した事例も存在する。栃木県では1月、県立高校内で男子生徒が別の男子生徒を殴打・蹴る動画が拡散。県警は2月に傷害容疑で書類送検し、宇都宮地方検察庁が3月に家庭裁判所送致した。
少年法抵触の懸念と法的見解
SNS上では「少年も大人と同じように実名を公開されるべきだ」という主張とともに、暴行動画が拡散されるケースが見られる。しかし、少年法61条は、家庭裁判所の審判に付された少年について「氏名、容貌などにより本人であることを推知できるような記事を新聞や出版物に掲載してはならない」と明確に規定している。この規定は、少年は比較的更生可能性が高く、刑罰よりも教育的な手段で更生を図るべきだという理念に基づいている。
法務省は2021年の参議院法務委員会で、個人によるインターネット上の発信も61条の禁止対象に含まれるとの見解を示した。日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員の須納瀬学弁護士は、少年間の暴行動画について「少年法61条に抵触していると考えられる。いじめの被害者がやむにやまれずSNSを使うことと、第三者が投稿・拡散するのはまったく別の行為である。第三者による私的制裁は不適切だろう」と強調する。
動画拡散が「正義」の名の下に行われる現代のいじめ問題は、被害者と加害者の双方に深刻な影響を与え、法的・教育的な課題を浮き彫りにしている。



