「金持ちより人持ち」 サッカー未経験の恩師が無名校を全国大会へ導いた教育哲学
「金持ちより人持ち」恩師が無名校を全国大会へ導く

「金持ち、土地持ちよりも大事なのは『人持ち』だぞ」

東亜大学硬式野球部の元監督を務めた中野泰造氏は、奈良県の定時制高校で保健体育教師として教鞭を執り、野球部の監督を担当する一方で、別の県立高校でも講師として教壇に立っていた。その教育現場で運命的な出会いを果たしたのが、教諭でありサッカー部の顧問を担当していた阿部章氏であった。阿部氏は、人間関係の構築と人との絆を何よりも重視する姿勢を「人持ち」という独自の言葉で力強く説き、中野氏に深い影響を与えたのである。

「教わったことのすべてが、今でも貴重な教訓となり、生きる上での糧となっています」と、中野氏は既に他界した恩師に対する敬愛の念を込めて語る。生前の阿部氏を心から尊敬し、師と仰いでいた中野氏は、その教えを今日まで大切に胸に刻み続けている。

10歳年上の先輩からの薫陶

阿部氏は中野氏より10歳年上で、同じ天理大学(奈良県天理市)の出身であった。この縁から、阿部氏は中野氏を連日のように食事に誘い、様々な面で目をかけ、指導を施した。時には深夜に呼び出されることもあったが、中野氏は酒を豪快に飲みながら、包み隠さず理想の教育論を語る阿部氏の姿に強く惹かれていったという。

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阿部氏は、サッカーに関しては未経験であったにもかかわらず、無名の高校サッカー部をわずか数年で全国大会へと導く手腕の持ち主であった。ある日、中野氏が阿部氏から遠征のスケジュール表を見せてもらった時のことである。

緻密な計画と大胆な人柄の二面性

そのスケジュール表には、達筆な文字で分刻みの緻密な行動予定が詳細に書き込まれていた。中野氏が「監督はこんな細かいことまで考えなければならないのですか」と驚きの表情を浮かべると、阿部氏は「当たり前じゃないか」と言わんばかりに笑い飛ばしたという。普段は大胆で豪快な人柄で知られる阿部氏の裏側に、生徒たちに対する極めて繊細な心配りと配慮が存在していたことを、中野氏はその瞬間に初めて実感したのである。

このエピソードは、阿部氏の教育哲学の核心を如実に物語っている。表面的な華やかさや物質的な豊かさではなく、人との深い絆と信頼関係、そして生徒一人ひとりへの細やかな気遣いこそが、真の教育の礎であるという信念が、「人持ち」という言葉に凝縮されている。中野氏は、阿部氏から学んだこの価値観を、自身の野球指導や教育活動にも活かし続けている。

無名校を全国の舞台に立たせた背景には、単なる技術指導や戦術論だけではなく、人間性を育む教育への揺るぎない情熱があった。阿部氏の残した「人持ち」の教えは、現代の教育現場においても、かけがえのない指針として輝きを放ち続けているのである。

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