マンション防災の要、非常用発電機補助制度に潜む「更新対象外」の盲点
災害時に在宅避難を可能とするため、東京都がマンションの非常用発電機や蓄電池設置に補助金を出す事業において、当初は機器の「更新」を対象外としていた問題が浮上した。この制度の不備に対し、申請者から「都の防災への認識が低いのでは」との疑問の声が上がり、都は後に方針転換を余儀なくされた。しかし、根本的な課題は未解決のままであり、首都東京の防災対策の実効性が問われている。
「防災対策が目的なのに買い替えがダメとは理解できない」
東京都は、大規模災害時にも生活を継続できる対策を推進する「東京とどまるマンション」の登録を促進している。2024年度から開始された補助金事業は、この登録マンションを対象としており、停電時でも3日程度はエレベーターや水道を使用できるよう備えるため、非常用発電機の設置費用の2分の1、最大1500万円を補助する内容だ。ただし、新築マンションは対象から除外されている。
東京新聞の「ニュースあなた発」に情報を提供したのは、西東京市の登録済みマンションで修繕計画を担当する小田収さん(69歳)である。約400世帯が居住するこのマンションには、約30年前の新築時に設置された発電機が存在するが、既存の設備では停電時の水のくみ上げが不可能なため、より高性能な機器への更新を管理組合に提案し、総会で承認を得た。
しかし、昨年9月に補助金を申請したところ、東京都から「発電機の更新は対象外」との回答が伝えられた。小田さんは困惑の表情を浮かべながら語る。「非常用発電機は通常、マンション建設時に設置されるものです。後から追加しようとしても物理的なスペースが確保できない場合がほとんどです。この条件では、補助金の対象となるマンションは極めて限られるのではないでしょうか」。
発電機に詳しい業者も同様の懸念を示す。「既存マンションへの後付け設置は技術的にも困難なケースが多い。防災対策を目的とした補助金でありながら、買い替えを認めないのは矛盾しているように感じます」。
都の対応:申請締切後に制度改正も根本的課題は残る
実際のところ、発電機の補助申請は新規設置で1件のみであったが、都は申請締め切り後の今年1月末に、更新も対象に含めるよう補助金の交付要綱を改正し、方針を転換した。都住宅政策本部の西平倫治マンション防災担当課長は説明する。「当初は屋外などへの新規設置を想定していたため、補助対象を新規に限定していました。しかし、現場の意見を踏まえ更新にも拡大し、対応に問題はないと考えています」。
小田さんは、マンション防災が首都東京にとって重要な課題であることを認め、都の補助制度自体には「意義深い」と評価する。それだけに、更新を当初対象外とした点には強い失望を覚えたという。
さらに問題はこれだけではなかった。申請から5カ月後の2月13日、補助金交付が決定したものの、非常用発電機に関する法令との関係で、全額が補助対象とはならなかったのである。
非常用発電機は、マンションの高さや面積、テナントの有無などの条件に応じて、消防法や建築基準法、都火災予防条例によって設置が義務付けられている。しかし、これらの法的義務がカバーする範囲は、あくまで緊急時に消防設備などを稼働させるのに必要な最低限の性能に留まる。
東京都は、この法的義務の範囲を基準として、マンション側が主体的に上乗せする性能向上部分のみを補助金の対象とした。その結果、小田さんのマンションの場合、更新費用約3900万円のうち、約1150万円しか補助が適用されなかった。
在宅避難のカギを握る水の確保 補助制度の実効性が問われる
高層マンションの多くでは、水道水は電力によって地下からくみ上げられている。しかし、「東京とどまるマンション」の登録物件であっても、停電時に水道に対応できる発電設備を備えているマンションは依然として少数派である。
小田さんは強い意志を示す。「補助金が適用されなくても、発電機の更新は実施することを決めていました。在宅避難においては、水さえ確保できれば何とか対応できるからです」。都は「補助金を活用して設置を推進してほしい」として、2026年度も事業を継続する方針を明らかにしている。
今回の事例は、行政の防災対策が現場の実情に即していない場合、その効果が大きく損なわれる可能性を浮き彫りにした。制度設計の段階から利用者の声を反映させ、実践的な支援を提供することが、今後の課題と言えよう。
