災害時のトイレ環境の改善に向けた取り組みが、官民で活発になっている。2024年1月の能登半島地震を教訓に、利便性や快適さを追求したトイレの開発や導入が進み、国も配備を促そうと自治体向けの指針を改定した。背景には、不衛生なトイレが健康問題につながるという懸念がある。
能登半島地震を機に注目される新たなトイレ
紙製のパーツを2人の社員がそれぞれ軽々と持ち上げ、つなぎ合わせていく。便器や扉も取り付け、わずか20分で完成。防災用品メーカー「スマイル・ブラザーズ・ジャパン」(東京)が製造する備蓄用の「ほぼ紙トイレ」は、工具なしで組み立て可能だ。
選挙ポスターの掲示板に用いられる耐水性に優れた紙でできており、汚物をためるタンクを含め重さは43.5キロ。バクテリア製剤をタンクに投入することで菌の繁殖や臭いも抑えられる。くみ取り式で断水時も使える。
2019年に販売を始めた当初は、多い時でも一度に10基ほどの発注だったが、能登半島地震以降、自治体や企業の問い合わせが相次ぎ、一度に100基の注文が入ることも。昨年度に導入した新潟県小千谷市の担当者は「避難者も簡単に組み立てられ、災害発生初期から安心してトイレを利用してもらえる」と話す。
「トイレだけはどうにもならない」被災者の声
トイレの問題がひときわ注目されたのが、能登半島地震だった。被災地の石川県では、下水道管が破損し、トイレが長期間流せなくなった。道路寸断で仮設トイレの配備も遅れた。不衛生なトイレを使う回数を減らそうと、水分摂取や食事を控え、体調が悪化した住民もいた。
同県珠洲市で鮮魚店を営む男性(68)が身を寄せた自主避難所は、断水でトイレが使えず、仮設トイレが届くまでは、敷地内の地面に穴を掘って袋をかぶせ、用を足したという。
男性は「食料や布団は被災した自宅から各自が持ち寄ったが、トイレだけはどうにもならない。我慢もできないので排せつ物はたまり、臭いにも苦しめられた」と振り返る。
「家と変わらず快適」なトイレの開発相次ぐ
こうした状況を受け、新製品の開発も相次ぐ。横浜市の企業「e6s(エシックス)」は、排せつ物からフィルターで水分を分離し、消毒した上で洗浄水に再利用できるシステムを24年秋頃から販売している。既存のトイレに取り付け、災害時には断水しても水を流せる。
価格は約700万円で、自治体が購入する場合は国などの補助金の対象になる。福島県郡山市の多目的ホールや東京都調布市の公衆トイレで導入された。
同社は地元の「神奈川トヨタ自動車」と連携し、システムを備えたトイレカーも開発。車体の太陽光パネルで電力を確保し、温水洗浄便座も使うことができ、イベント会場や防災訓練で利用した人からは「家と変わらず快適だった」と好評を得たという。
便座の高さを調整できる簡易トイレ(約9000円)を今年3月に発売したのは、生活用品メーカー「伊勢藤」(大阪府東大阪市)だ。段ボール製などの簡易トイレは高さ35センチ程度のものが多いが、この商品は一般の洋式便座と同じ42センチと幼児用の22センチに調整可能で、高齢者も膝や腰に負担なく利用できる。
開発担当の土肥洋介さん(25)は「トイレ問題は災害関連死にもつながりかねない。南海トラフ地震などへの備えに貢献したい」と意気込む。
国や都道府県が人材支援を
国も対策に乗り出している。内閣府は2024年12月、避難所でのトイレ運用に関する自治体向けの指針を改定。避難が長期化する場合は「20人につき1基」の確保を求めた。
内閣府によると、携帯トイレは全国的に備蓄が進むが、仮設トイレやトイレカーは確保できていない自治体も目立つ。このため、指針では多様なトイレの配備を促し、日数経過とともにどう組み合わせるかのモデルケースを示している。
トイレを含めた避難生活環境の根本改善は、11月に発足を目指す防災庁の基本方針に盛り込まれる。今国会に提出された災害対策基本法改正案では、基本理念に「全ての被災者が良好な生活環境を享受できるようにする」と明記された。
NPO法人「日本トイレ研究所」の加藤篤代表理事は「トイレを安心かつ衛生的に使うには、後処理が欠かせない。質の高い技術や製品を生かすには、下水道や浄化槽、廃棄物処理などシステム全体を見渡せる司令塔役の部署が必要だ。小規模の自治体には、国や都道府県が人材支援をしてほしい」と話す。



