刑事裁判のやり直しを可能にする再審制度の見直しを目的とした政府法案が国会に提出され、26日から審議が始まる見通しだ。冤罪被害者を少しでも早く、確実に救済できる制度となるかどうかが問われている。特に「証拠開示」「目的外使用」「検察抗告」の三つの論点を巡って激しい議論が予想され、法案はなお修正される可能性がある。
証拠開示の範囲が最大の焦点
日本弁護士連合会(日弁連)の鴨志田祐美・再審法改正推進室長は14日の記者会見で、「閣議決定されて終わりではなく、ここからがスタート」と述べ、今後の国会審議の重要性を強調した。鴨志田氏は法制審議会(法相の諮問機関)の部会で委員を務め、政府法案の基となる答申を取りまとめた。同席した村山浩昭弁護士と田岡直博弁護士も、自民党の審査を経てもなお残る法案の課題を指摘した。
国会で最大の焦点となるのは証拠開示の範囲だ。袴田巌さんの再審開始決定を裁判長として出した村山氏は「再審事件では証拠開示が生命線」と述べ、その重要性を強調する。元被告が無実を訴えて再審請求するには新証拠の提出が必要だが、弁護側は検察や警察がどのような証拠を保有しているか把握できない。再審無罪となった重大事件のほとんどで、決め手となったのは弁護側が提出した新証拠ではなく、再審請求後に検察が開示した証拠だった。
しかし、現行の刑事訴訟法には再審手続きに関する証拠開示のルールが存在しない。裁判所が開示を勧告しても検察に従う義務はなく、開示までに長期間を要してきた。袴田さんの場合、再審無罪につながる「5点の衣類のカラー写真」の存在が明らかになったのは、最初の再審請求から29年後だった。
法制審で採用された限定案
法制審の部会では、開示対象を限定する案と幅広くする案が検討されたが、限定案が採用された。これは通常の刑事裁判よりも狭い範囲の開示とすべきだという考え方に基づく。法制審の答申を基にした法案では、裁判所が検察に証拠の提出を命じることを義務付ける。ただし、対象は①再審請求理由との関連性②開示の必要性③開示しても弊害がない――という三つの要件をすべて満たすものに限定される。
問題となるのは「関連性」と「必要性」の範囲だ。自民党の審査を経て法案の付則には、提出命令の対象となる証拠の範囲が「不当に狭くならないよう留意しなければならない」と明記された。しかし、無罪につながる証拠が埋もれる恐れは完全には払拭されていない。
村山氏は「国会で責任ある答弁がなされれば、その後の運用をリードすることになる」と述べ、政府の答弁を通じて幅広い証拠開示を担保すべきだと訴えた。田岡氏は証拠の一覧表の開示が必要だと強調する。法案では証拠リストの対象範囲が限定される上、弁護側は閲覧できず、「ほとんど意味がない」と指摘。「証拠は検察がコントロールしたいという発想のもとにできた法案だ」と批判した。
目的外使用禁止規定も論点
証拠開示の範囲と並んで焦点となるのが、「目的外使用の禁止」規定の在り方だ。検察が開示した証拠を、再審手続き以外の目的で使用することを禁じるこの規定は、冤罪被害者の救済を妨げる可能性があると懸念されている。弁護側が開示された証拠を他の事件や調査に活用できないため、冤罪の連鎖を断ち切る妨げになるとの指摘がある。
検察抗告の取り扱い
さらに、検察の抗告権も論点の一つだ。再審開始決定に対して検察が抗告できる現行制度は、冤罪被害者の迅速な救済を阻む要因となっている。法案では検察抗告を制限する方向で検討が進められているが、その範囲や条件を巡って議論が続いている。
政府はこれらの課題を踏まえ、国会審議を通じて修正を加える可能性がある。冤罪被害者を救済する制度の実現に向け、与野党の真摯な議論が求められている。



