再審法案、なぜ今見直し?国会審議の焦点4点を徹底解説
再審法案、国会審議の焦点4点を徹底解説

有罪確定後の刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しに向け、刑事訴訟法改正案の審議が国会で始まりました。なぜ今見直しが必要で、法案の内容はどのようなものか。国会での論点はどこにあるのか。ポイントをまとめました。

①なぜ見直す必要がある? どんな法案?

再審制度は、有罪が確定した人が「判決は間違っている」と訴え、裁判のやり直しを求める仕組みです。

日本の刑事裁判では、地裁、高裁、最高裁で計3回まで裁判を受けられる「三審制」を採用しており、十分な審理で誤りを防ぐことを目的としています。再審は、それでもなお誤って有罪とされてしまった人を救うための最終手段です。

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再審を開くかどうかは、再審請求審という非公開の手続きで決まります。しかし、現行の刑訴法には再審に関する規定が乏しく、司法現場の運用に委ねられてきました。特に、検察が重要な証拠をなかなか開示しないことや、審理が長引いて冤罪被害者の救済に時間がかかることが問題となっています。

今回の見直しの大きなきっかけとなったのは、袴田巌さん(90)のケースです。静岡一家殺害事件で死刑判決が確定してから、再審無罪が確定するまでに43年10か月を要しました。

法務省は、法制審議会(法相の諮問機関)の答申をもとに政府法案をまとめました。検察に通常の裁判で提出されていなかった証拠を開示させるためのルールや、再審請求を速やかに審理するための手続きなどが新設されました。一方で、再審開始決定に対する検察の不服申し立て(抗告)を禁止することは見送られました。

これに対し、自民党の事前審査では、検察抗告を禁止するよう求める声が相次ぎました。法務省は検察抗告の要件を厳格化するなど修正を重ね、法案の提出にこぎ着けました。

②証拠開示ルールの論点は?

国会審議では、重要な証拠をしっかり開示させられる仕組みを作れるかが大きな焦点となります。

元被告が再審請求をするためには、裁判所に新たな証拠を提出しなければなりません。しかし弁護側は、検察や警察の手もとにどのような証拠が保管されているのか分かりません。このため、再審無罪となった重大事件の多くで、弁護側が提出した新証拠ではなく、検察が再審請求後に開示した証拠が決め手となってきました。

政府法案は、裁判所が一定の要件のもと、検察に証拠の開示命令を出すことを義務づけています。ただし、裁判所が命令を出せるのは、①再審請求理由との関連性、②開示の必要性、③開示による弊害――を考慮して、相当と判断した場合に限られます。

弁護側は、検察が開示命令を受けて裁判所に提出した証拠を閲覧したり複写したりします。

問題は「関連性」と「必要性」の範囲です。法案の付則には、自民党の事前審査を経て、開示範囲が「不当に狭くならないよう留意しなければならない」と記されました。しかし、無罪につながる証拠が埋もれるのではないかとの懸念はぬぐえません。

国会では、幅広い証拠開示を担保していくため、法務省や最高裁の答弁が問われることになります。

証拠リストの開示も課題です。政府法案では、裁判所が証拠のリストを検察に提出させることが可能となります。しかし、対象範囲が限定されるうえ、裁判所だけが見ることのできる「インカメラ方式」での提示で、弁護側には開示されません。

弁護士らは「証拠は検察がコントロールしたいという発想のもとにできた法案だ」と批判し、一覧表の開示を訴えています。

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③証拠の「目的外使用禁止」の問題とは?

開示された証拠の公開を禁じる「目的外使用の禁止」規定も、国会の焦点となりそうです。

政府法案では、検察が開示した証拠を再審手続きやその準備以外で使うことを禁止します。違反した場合、1年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

事件関係者の名誉や、被害者のプライバシーを守ることが目的とされ、通常の刑事裁判にも同様の規定があります。

しかし、通常の刑事裁判が公開の法廷で行われるのに対して、再審請求審は非公開の手続きです。このため、「隠された証拠が国民の目に触れる機会がなくなる」「再審手続きがますますブラックボックス化する」などとして、一律の禁止や罰則規定に反対する声が上がっています。

これまでの再審無罪事件では、検察が再審請求後に開示した証拠が、弁護士を通じてメディアや支援者らに共有されたことで、世論の関心が高まった経緯もあります。

袴田さんのケースでは、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」のカラー写真が公開され、違和感を持った支援者が実験をした結果、色の変化に不自然な点があることが判明し、その後の再審無罪につながりました。

「目的外使用の禁止」規定をめぐっては、自民党の事前審査で修正された現状でも、法案の付則に慎重な運用を求める規定すら入っていません。

自民党の井出庸生衆院議員は5月24日、自身のSNSに「国民の知る権利、裁判の公開のための公表が、罰則の適用にならないのはもちろん、萎縮を招かないよう、法令違反とならないような議論をしてまいりたい」と投稿しました。

④検察抗告、残された課題は?

自民党の事前審査で注目された検察抗告についても、なお課題は残っています。

当初の政府法案では、法制審の答申に沿って、再審開始決定に対する検察の抗告に何の制限も設けていませんでした。

その後、事前審査を経て検察抗告の要件は厳格化されました。

まず、高裁への即時抗告を認める現行法の規定を削除して、「原則禁止」の位置づけとしました。そのうえで、再審開始決定が取り消されるべきものと認めるに足りる「十分な根拠」がある場合のみ可能としました。最高裁への特別抗告の要件についても、現行の憲法違反や判例違反に「十分な根拠」を加えました。

そのうえで、検察が抗告した理由を遅滞なく公表すると規定し、外部から検察抗告の適否を検証することが可能な仕組みとしました。

法案の付則では、改正法の施行後「5年ごと」に、必要に応じて見直しを検討することも約束されました。検察が「十分な根拠」のない抗告を続けていると判断されれば、将来的に抗告が全面禁止とされる余地も残る立て付けとなっています。

「要件の厳格化」「検証可能な仕組み」「将来の見直し」がパッケージで規定された形で、法務省幹部は「即時抗告、特別抗告ともに現行法よりハードルが上がる」としています。ただ、現在の運用と比べて、どの程度の制約となるかは不明確で、法務省の国会答弁を見極める必要があります。

国会では、中道改革連合など野党3党が共同提出した対案が、政府法案と同時並行で審議されます。この議員立法案には、検察抗告の禁止が盛り込まれており、抗告禁止の是非も再び議論されることになりそうです。