海上保安庁「118番」の誤通報が深刻化 有効通報率わずか1%の実態
海上の事件や事故を通報するための緊急電話番号「118番」において、誤った通報が相次いでいる問題が浮き彫りとなっている。海上保安庁が明らかにした最新データによると、2025年度に東北地方6県を管轄する第2管区海上保安本部に寄せられた通報のうち、実際に海上の緊急事態に関する有効な通報はわずか1.05%に過ぎなかった。この数字は、同制度が導入された2000年以降、ほぼ一貫して1%前後で推移しており、根本的な改善が求められる状況が続いている。
青森での具体的事例から見える現場の負担
2024年11月には、青森市内から118番への通報を受けた第2管区海上保安本部が、青森海上保安部に緊急指令を発令する事態が発生した。通報者の位置情報は青森港を示していたものの、電話口は完全な無言状態だったという。これを受けて青森海上保安部は直ちに対応を開始し、職員7名が巡視艇で海上を捜索するとともに、港湾内を車両でくまなく見回りを行った。さらに航空機も出動させたが、通報者と思われる人物や何らかの事件・事故の痕跡は全く発見できなかった。
約1時間後にようやく通報者と連絡が取れた際、その人物は「現在は仕事で陸上にいるが、通報した記憶はない。おそらく誤ってダイヤルしてしまったようだ」と説明したという。この一件だけで、貴重な人的・物的資源が誤通報対応に割かれることとなった。
青森海上保安部の太田直之・渉外係長は現場の実情を次のように語る。「青森海上保安部は大規模な事務所ではなく、配置されている職員や船舶の数にも限りがあります。限られた戦力を誤通報の対応に割かれてしまうと、本当に必要な緊急通報が入った場合に十分な対応ができなくなる危険性があります」。
2025年度の通報データが示す深刻な実態
第2管区海上保安本部が発表した2025年度の通報統計によると、通報総数は16,271件に上ったものの、そのうち海上保安庁の業務に関連する有効な通報はわずか171件(1.05%)に留まった。残りの98.95%は何らかの形で有効ではなかった通報であり、内訳を詳細に分析すると以下のような状況が明らかになっている。
- 無言電話:54.8%(全体の過半数を占める)
- 間違い電話:26.5%
- 着信後すぐに切れた電話:17.4%
- いたずら電話:14件(0.09%)
同本部の関係者によれば、誤通報の背景にはいくつかの要因が考えられるという。まず、番号の類似性から警察(110番)や消防(119番)への通報と混同されるケースが少なくない。さらに、消費者ホットライン(188番)との誤認も報告されている。数字の配列が似ているため、緊急時に慌ててダイヤルする際に間違えやすい構造的な問題が指摘できる。
海上保安庁の取り組みと市民への呼びかけ
第2管区海上保安本部の担当者は今後の対策について次のように述べている。「まず第一に、誤って118番にかけてしまったことに気づいた場合には、『間違いです』と一言申告していただくことが極めて重要です。これだけで無用な捜索活動を防ぎ、貴重な資源を適切な用途に振り向けることができます」。
さらに同庁では、単に「118番」の認知度を向上させるだけでなく、具体的にどのような状況でこの番号を利用すべきなのかについて、より積極的な情報発信を強化していく方針を示している。海上での船舶事故、不審船の発見、海難者の発見、海洋汚染の目撃など、実際に海上保安庁が対応すべき事案について、市民への理解を深める啓発活動が求められている。
緊急通報システムの信頼性を維持するためには、制度の適切な運用と市民の正しい理解が不可欠である。誤通報が続く現状は、海上の安全を守る体制そのものを脅かす可能性があり、官民一体となった対策が急務となっている。



