在宅医療の災害時対応強化へ 厚労省がBCP策定義務化を決定
大規模災害が発生した際、医療機関や介護施設に入所している患者の安否確認や支援は比較的スムーズに行える場合が多いでしょう。しかし、自宅で療養生活を送る在宅患者の場合、災害時に必要な医療ケアを継続することは極めて困難な課題となっています。高齢化社会が急速に進展する現代において、在宅医療を担う医療機関が緊急時にも確実に対応できる体制の構築が急務となっています。
診療報酬改定でBCP策定を要件化
厚生労働省は、在宅患者への訪問診療などを実施している診療所や病院に対し、災害発生時の業務継続計画(BCP)の策定を義務付ける方針を固めました。新年度の診療報酬改定において、在宅医療の拠点となる診療所などを新規に開設する場合、BCPの策定を必須要件とすることが決定されました。既存の医療機関については、来年5月末までに計画策定を完了することが求められます。
BCPとは、企業や医療機関などが自然災害や事故などの非常事態に直面した際にも、重要な業務を確実に継続できるよう迅速に体制を立て直すための計画を指します。東日本大震災を契機として、日本国内でもその重要性が広く認識されるようになりました。
過去の災害で浮き彫りになった課題
政府は2017年に災害拠点病院に対してBCP策定を義務付け、2021年には介護事業者にも同様の義務を課しました。しかし、これまで在宅医療を専門とする診療所などは対象から除外されてきました。
在宅患者の中には、人工呼吸器や酸素濃縮装置などの生命維持装置を使用しながら生活している人々が少なくありません。災害による停電時に電源確保ができなければ、最悪の場合、命にかかわる深刻な事態に陥る危険性があります。
実際に、2018年に発生した北海道胆振東部地震では大規模な停電が発生し、在宅で酸素吸入器を使用している患者が生命の危機に直面しました。また、2024年の能登半島地震では道路網が寸断され、定期的な訪問診療を受けられなくなる高齢者が相次ぎました。こうした事例の一部は、災害関連死につながった可能性も指摘されています。
個別対応と地域連携の重要性
在宅医療を支える診療所などは、これらの具体的な災害事例を詳細に検証し、個々の患者の健康状態や医療ニーズに配慮した実践的なBCPを策定する必要があります。緊急時に優先的に対応すべき患者を事前にリストアップし、安否確認の手順や連絡方法を明確に定めておくことが不可欠です。
訪問診療の継続が困難な状況に備え、周辺地域の他の医療機関や介護施設との間で患者支援体制について事前に協議し、連携協力の枠組みを確立しておくことも極めて重要となります。
地域全体での支援ネットワーク構築へ
そもそも在宅医療の対象となる患者の多くは、慢性疾患や高齢による身体機能の低下により通院が困難な人々です。災害発生時には自力での避難が不可能な場合が多く、特別な支援を必要とします。こうした要支援者については、自治体が平時から正確に把握し、個別の避難計画を策定することが法律で定められています。
患者とその家族だけでなく、行政機関、医療関係者、介護専門職などが日常的に情報を共有し、地域全体で一体となった支援体制を確立することが何よりも重要です。災害に強い在宅医療システムの構築は、超高齢社会を迎えた日本の喫緊の課題と言えるでしょう。



