子宮頸がんワクチン接種の迷走とその背景
子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐワクチン接種は、副反応疑いの報告をきっかけに政府の対応が迷走し、様々な情報が錯綜しました。この一連の騒動について、国立がん研究センターがん対策研究所の片野田耕太・データサイエンス研究部長が書籍「HPVワクチンのはなし 効果は?リスクは?なぜ問題になったの?素朴な疑問に答えます」(朝倉書店)にまとめ、初期対応の不適切な面を指摘しています。
積極的勧奨の差し控えとその影響
片野田氏によれば、2013年4月にHPVワクチンの定期接種が開始されましたが、副反応の疑いが新聞などで報じられたことで、わずか2か月後に厚生労働省の審議会が積極的勧奨の差し控えを決定しました。審議会は翌年までに、ワクチン接種後の多様な症状を「機能性身体症状」と位置づけ、HPVワクチンとの因果関係を示す証拠はないと結論づけたものの、勧奨を再開するまでに9年近くを要しました。
定期接種化前の緊急促進事業では、多くの自治体が無償提供し、接種率は約8割に達していましたが、この決定後、ほぼゼロに落ち込みました。片野田氏は、HPVワクチンの接種で子宮頸がんを予防できることは科学的な事実であると強調し、がん研究センターとして何かできないかと考えたと述べています。
科学的証拠に基づく情報提供の取り組み
2021年9月にがん研究センター内に設立されたがん対策研究所では、部門を横断するプロジェクトとして、2023年6月にHPVワクチンについての科学的な証拠を示す医療従事者向けのファクトシートを作成しました。さらに、2023年10月には一般向けのリーフレットをまとめ、効果の持続性や副反応の頻度について詳細に説明しています。
片野田氏は、がんを予防する有効性が高いことは国内外で確認されており、副反応の報告は他の予防接種に比べてやや多いものの、重い症状は約1万接種に1回の頻度だと指摘します。一方で、HPVワクチンの被害を訴える人たちが国と製薬会社を相手取って2016年に損害賠償を求める訴えを起こしていることも触れ、この問題の総括がされないまま時間が過ぎてしまったと懸念を示しています。
初期対応の課題と医療体制の整備
一連の動きを通じて、片野田氏は審議会で勧奨を再開するまでに、接種後に症状が発生した人をどのようにケアするか、医療体制の整備について話し合われたと説明します。当時、痛みを訴えた人が診療科をたらい回しにされるなど、初期の対応が適切でなかった面もあると認めています。現在は対応のマニュアルや地域ブロックごとの専門医療機関が整備され、改善が図られていると述べています。
疫学・公衆衛生学を専攻する片野田氏は、起こった事象を真摯に振り返り、丁寧に説明し、今後同じようなことが起こらないようにすることが必要だと訴えています。彼は、受動喫煙を防ぐ2018年の健康増進法の改正にも、健康影響についてデータを示すたばこ白書の作成で関わった経験を持ち、科学的証拠に基づく政策立案の重要性を強調しています。
片野田耕太氏は、2002年に東大大学院医学系研究科博士課程を修了し、2005年に国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に入所、2023年から現職に就いています。他の著書には「本当のたばこの話をしよう」(日本評論社)があり、公衆衛生分野での豊富な知見を活かした活動を続けています。



