「この店は私の生きる希望」発達障害の女性が切り開いた居場所
発達障害や精神障害を持つ女性たちが店員として働く大阪市内のメイド喫茶が、開店から間もなく1周年を迎えようとしている。自身も注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの特性を持つ代表の花屋乃かやさん(38)は、転職を20回以上繰り返した末にこの店舗を立ち上げた。「障害について気軽な雰囲気の中で知ってもらいたい」という思いから始めたこの挑戦は、約2300人の来店者を集め、店員には特性を否定されずに働ける場を、客には自由な雰囲気に安らぎを得る場所を提供している。
「ゆっくりでいいよ」温かい声かけが交わされる空間
「そういえばアップルジュース作るんだった」店員の女性が慌てると、客が自然に「大丈夫、大丈夫。ゆっくりでいいよ」と声をかける。大阪市阿倍野区にある「発達障害メイド喫茶スターブロッサム」では、こうした温かいやりとりが日常的に交わされている。
花屋乃さんがメイド喫茶の運営を思いついたのは、高校時代のアルバイトがきっかけだった。「かわいい」と褒められ、特性を否定されずに過ごせる経験から、「障害がある人も自分らしくいられる場を作りたい」と考えたのである。
無理解との闘いから起業への決意
学生時代はいじめに遭い、就職後も物忘れなどの特性が響いて広告会社、コールセンター、工場など職を転々とした。約20回目の転職で保育士になった時、他の保育士が園児のことを「あの子は発達障害」と話すのを聞き、無理解に胸が締めつけられた経験が転機となった。
「まずは知ってもらうこと」が必要だと強く感じ、メイド喫茶なら「珍しくて社会が注目してくれるかもしれない」と起業を決意。大阪市浪速区の日本橋で2022年から3年間、間借りして営業を開始した。
SNSの口コミで広がる輪
スタッフ6人ほどで始めた事業は、SNSなどの口コミで働きたいという希望者が急増し、手応えをつかんだ。クラウドファンディングで資金を集め、2025年3月に現在の阿倍野区にカウンター7席の店を開店。障害を持つ人が店員として働くメイド喫茶は全国的に珍しく、国内外から客が訪れ、リピーターも多い。
毎週訪れる堺市の介護福祉士の男性(62)は「子どもの頃から人見知りで、輪に入るのが苦手だった。ここに来たら、一生懸命なメイドさんや気の合うお客さんがいてほっとする」と語る。日本橋時代から通う大阪市中央区の男性会社員(51)も「もともとメイド喫茶が好きだが、ここに来てみると自由な雰囲気とメイドさんの面白い人柄が楽しくて、通うようになった」と話す。
公的資金に頼らないビジネスモデル
この店は障害者の自立を支援する「障害福祉サービス事業所」の指定は受けず、一般の飲食店として営業している。花屋乃さんは「公的資金に頼らず、純粋に利益を出せるビジネスモデルを確立したい」と意気込む。
現在のスタッフは20人で、ほとんどが発達障害や精神障害、うつ病などの当事者だ。半数が自主的に勉強し、食品衛生責任者の資格を取得。社会福祉士もスタッフとして働いており、月に2回、スタッフや客向けに社会福祉制度の説明会を開いている。
専門家も評価する社会的意義
花屋乃さんは「受け止めてくれるお客さんがいるからこそ、やってこられた。この店が私の生きる希望です」と笑顔を見せる。
大妻女子大学の小川浩教授(社会福祉学)によると、発達障害のある人は自身の特性を理解して言葉にするのが苦手なことが多く、企業側は事前に把握できないため、ミスマッチが生じて転職を繰り返すケースが多いという。
小川教授は「発達障害のある人はこれまで、データ処理など限られた職種が向いているとされてきたが、個性を生かしつつ働ける場があることは素晴らしい。自身の特性を理解しておくことが重要なので、接客を通じて自身の向き、不向きを知り、コミュニケーションを学べるのも、メリットになるだろう」と高く評価している。
このメイド喫茶は単なる飲食店ではなく、障害理解を深め、多様な個性が輝く社会の実現に向けた一歩となっている。花屋乃さんとスタッフたちの挑戦は、これからも多くの人に希望と気づきを与え続けることだろう。



