愛知県豊明市の桜花学園大学と同系列の名古屋短期大学は、2026年6月に岩手県陸前高田市と保育に関する包括連携協定を結ぶことが決まった。この協定は、東日本大震災の教訓を保育現場で生かすことを目的としている。保育士を目指す学生や短大生が被災地を訪れ、実習に参加することで、防災意識の高い人材を育成する狙いだ。
実習は2027年度開始、全国から参加者募集
計画によれば、実習は2027年度に開始される。名古屋短期大学が2027年度に新設する保育科通信教育課程の学生も対象となり、全国から希望者を募る。テーマは「防災・減災」で、約2週間にわたり計20人程度の参加を見込んでいる。
陸前高田市の防災体制を学ぶ
陸前高田市の保育園では、震災に備えた避難マニュアルや備蓄品の整備が進んでおり、学生たちはこれらを学ぶことで防災への理解を深める。また、同市の津波伝承館や震災遺構の見学も予定されている。
保育士不足解消にも期待
一方、陸前高田市側は保育人材の確保を期待している。保育士不足は全国的に深刻で、2026年1月の保育士の有効求人倍率は3.88倍。岩手県でも2.98倍に上り、全職種平均の1.27倍を大きく上回る。陸前高田市には保育士の養成校がなく、希望者は市外に進学し、そのまま戻らないケースが多いとされる。名古屋短期大学の通信教育課程に市内在住者向けの入学枠を設け、地元での就職につなげる計画だ。
教授の提案がきっかけに
この協定は、桜花学園大学教育保育学部の新沼英明教授(保育政策)が、仕事と休暇を組み合わせる「保育実習ワーケーション」として提案した。同様の協定は全国的にも例がないという。締結式は2026年6月8日に陸前高田市で行われる予定だ。
津波で両親を失った教授の思い
協定締結に向けて中心的な役割を担う新沼教授は陸前高田市出身で、東日本大震災の津波で両親を失った。50歳になった今もふるさとへの愛着は強く、「陸前高田のために何かしたいとずっと思ってきた。保育環境の充実に加え、広い視野を持つ保育士の育成に貢献できれば」と語る。
新沼教授は北海道医療大学大学院を修了し、社会福祉士と保育士の資格を持つ。震災当時は北海道函館市内の短大で教壇に立っていた。2011年3月11日、激しい揺れの後、両親に電話したがつながらず、月末に父親が津波で亡くなったことを知り、その後、民生委員だった母親も亡くなっていたことが分かった。
交通網の寸断により、故郷に戻れたのは約1カ月後。自宅は全壊し、街並みは一変していた。「震災当時、何もできなかった悔しさがある」。自身の専門知識を生かし、提案したのが今回の取り組みだ。
「命を守る保育」の重要性
震災では多くの子どもたちが犠牲になった。新沼教授は「命を守る保育」の重要性を痛感し、「南海トラフ地震への備えという意味でも、防災意識を強く持つ保育士を育てたい」と使命感を語る。
東日本大震災から15年が経過したが、復興は今も大きな課題だ。学生たちは実習中、休日にイベントに参加したり、郷土料理を味わったりすることもできる。旅行などを含めて交流が深まれば、将来的に就職や移住につながる可能性もある。新沼教授は「交流人口の増加が非常に重要になる。全国から学生が集まることで、被災地の活性化にもつながれば」と期待を寄せている。



