経営環境が厳しさを増す中、欧州の自動車大手各社が軍事装備品分野への進出を本格的に模索している。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やフランスのルノーなどが、電気自動車(EV)の普及遅延や中国メーカーの攻勢に対応するため、新たな収益源として防空関連機器やドローンの製造を検討していることが明らかになった。地政学的な緊張の高まりに伴い、これらの分野では需要増加が見込まれており、既存の生産拠点や雇用の維持につなげる狙いがある。
VW、オスナブリュック工場で防空機器生産を検討
英紙フィナンシャル・タイムズの報道によると、VWはドイツ北部のオスナブリュック工場において、防空用機器の生産を検討している。同工場は存続が不透明となっており、VWはイスラエルの防空システム「アイアンドーム」を開発した軍需企業ラファエル社と協議を進めている。具体的には、ミサイルを運搬するトラックや発電機などの製造を想定しており、約2300人の雇用維持を目指している。VWの労使は2027年に同工場での車両生産を終了することで既に合意しており、転換が急務となっている。
ルノーなど他の自動車大手も参入検討
ルノーも同様に、軍事装備品市場への参入を検討しているとされる。EVシフトの遅れや中国勢の台頭により、自動車業界全体が構造的な変革を迫られる中、防衛関連事業は新たな成長分野として注目を集めている。特にドローン技術は、自動車メーカーが持つ電動化や自動運転のノウハウを応用できる可能性があり、相乗効果が期待される。
ステランティスは距離を置く姿勢
一方、プジョーやフィアットなどを擁する欧州のステランティスは、防衛産業への進出に慎重な立場を示している。ジョン・エルカン会長は「自動車の未来が防衛産業にあるとは考えていない」と述べ、経営構造の転換には距離を置く方針を明確にした。同社は既存の自動車事業に集中し、EVやソフトウェア分野での競争力強化を優先する見通しだ。
地政学的緊張が需要を後押し
ウクライナ紛争や中東情勢の悪化など、地政学的な緊張の高まりが防衛装備品の需要を押し上げている。特に防空システムやドローンは、現代の戦闘において重要性が増しており、各国の防衛予算増加に伴い市場拡大が見込まれる。自動車大手の参入は、こうした需要を取り込むとともに、自動車生産で培った製造技術やサプライチェーンを活用できる利点がある。
しかし、軍事関連事業への転換には倫理的な課題や企業イメージの変化といったリスクも伴う。各社の動向は、今後の欧州自動車産業の行方を占う試金石となるだろう。



