1980~90年代に生産された往年のスポーツカーの人気が再燃する中、車を新車同然にレストア(修復)したり、部品を復刻したりする動きが国内の自動車メーカー各社で広がっている。「愛車に乗り続けたい」というファンとの絆を深め、自社の歴史やブランド価値をアピールする狙いもある。
レストア事例:4か月・460万円で「新車みたい」
「人生の半分を共にしている車。レストアできると知り、本当にうれしかった」と語るのは、広島市中区の工務店社長、盛谷一生さん(62)だ。約30年前に弟から1989年式の初代ロードスターを譲り受け、通勤やドライブで愛用してきた。
6年前にマツダのレストアサービスで、エンジンや足回りをオーバーホールし、全塗装した。作業期間は約4か月で、費用は約460万円かかったが、「自分の車が新車になったみたい。より愛着がわいた」と喜ぶ。
マツダの取り組み
マツダは2018年から、初代「ロードスター」のレストアや復刻部品の提供を始め、これまでに18台のレストアを終え、約170点の部品を復刻した。重視するのは、ファンとの絆づくりだ。レストア車のオーナーは修復の様子を工場で見学できるほか、納車式を自社博物館「マツダミュージアム」で行ったり、作業記録を収めた写真集をオーナーに贈呈したりするこだわりようだ。
「ネオクラシック車」の高値取引
1980~90年代の車は「ネオクラシック車」と呼ばれ、個性的なデザインやアナログな操作性の魅力が近年、SNSなどで広く発信されている。漫画や映画にもこうした名車の数々が登場することから若者らの注目度も高く、市場では高値で取引される。
旧車の人気について、トヨタ博物館(愛知県長久手市)の谷中耕平学芸員(50)は「日本のモータリゼーション(車社会化)の歴史の中で、80年代から90年代に日本車の性能が初めて世界レベルに近づいたというストーリーが人々を魅了するのではないか」と話す。
部品供給の課題と各社の対応
ただ、旧車は時間の経過とともに故障や不具合が増える。乗用車1台には2万~3万点の部品が使われているが、保管場所の確保や製造設備の老朽化などの問題があり、一般的にメーカーが補修部品を供給するのは、車両の販売終了から10~15年程度だ。
発売開始から数十年が経過する中、車検を通して公道で走り続けたいというファンの要望は熱く、各メーカーは「『親子2代で乗り継ぎたい』という思いに応えたい」「顧客との関係を守り続けるブランドでありたい」などとして、レストアや廃番になっていた部品の復刻に乗り出している。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は昨年9月、「ハチロク」の愛称で親しまれる「カローラレビン」「スプリンタートレノ」のエンジン部品の復刻を発表。スポーツカー「スープラ」などの部品を6年前から順次復刻させており、現在8車種約300点の部品を供給している。
ホンダ
ホンダも今年4月から、初代「NSX」を対象に変速機などの部品を復刻し、レストア事業も始めた。
日産自動車
日産自動車は「スカイラインGT-R」の部品を17年から再生産し、今年4月と6月には車名のエンブレムなど計43点を追加した。
熟練工の高齢化と協力体制
マツダでレストア事業を担当する伏見亮さん(57)によると、近年は物流費や材料費の高騰に加え、熟練工の高齢化も進み、社外の部品メーカーとも協力態勢を築いて部品の供給を続けているという。「オーナーさんに少しでも長く乗っていただき、古い車を大切にする文化を育てることが目的」と語る。
欧州の動きと日本の現状
欧州の自動車メーカーには「自社の車は後世に残す価値があるもの」という意識があり、BMW(独)やフィアット(伊)、ジャガー(英)などが旧車の修復に積極的に取り組んでいる。顧客側も、メーカーの歴史や時を経た車両の価値を評価する傾向があるという。
国内でも旧車を残す動きが広がっていることについて、谷中学芸員は「自動車の消費財としての役割だけでなく、文化財に近いものという認識が広がりつつあるのではないか」と分析している。



