電気自動車(EV)の普及に向けて、充電の手間を省くワイヤレス(無線)給電技術の開発が加速している。地面に埋め込んだ送電用コイルから車両に非接触で電気を供給する方式で、停車中や走行中に自動充電が可能となる革新的な技術として期待が高まっている。企業による実用化への取り組みが活発化している。
実証実験の状況
5月中旬、愛知県江南市にある名鉄NX運輸の物流拠点では、小型EVトラックが駐車スペースに停まると、運転者が外に出ることなく車載電池への充電が自動で始まった。従来は給電ケーブルを手動で接続する必要があったが、ワイヤレス方式ではその手間が不要となる。
このシステムは満充電になると自動停止する機能を備えており、配送業務のない夜間に充電を完了できる。3月から実証実験を開始し、6月末まで近隣を走行するトラックを使って利便性を確認する予定だ。
参画企業の一つとしてトラックを提供する三菱ふそうトラック・バスの林春樹副社長は、「新しい技術は最初から現場に完璧に適合するわけではない。物流現場の課題を丁寧に抽出したい」と述べ、実用化に向けた課題の洗い出しを重視する姿勢を示した。
技術の仕組みと利点
非接触給電を可能にしているのは、周辺に磁界を発生させる電気の特性である。地面に設置した送電用コイルが磁界を生成し、車両側のコイルがそれを受けて電流に変換する。コイル同士は多少位置がずれても電力を伝送できるため、駐車時の位置合わせの精度が緩和される。
実用化を目指す企業では、停車中だけでなく走行中の給電も模索している。一定距離ごとに走行しながら充電できれば、EVの航続距離への不安が解消されるほか、大型バッテリーが不要となり、車両価格の低下につながる可能性がある。
デンソーとトヨタの取り組み
自動車部品大手のデンソーは、走行中の無線給電について2029年度の技術確立を目標としている。2024年秋には、送電用コイルを埋設したテストコースで無線給電による50時間の連続走行に成功したという。トヨタ自動車は、デンソーや大林組と協力し、2027年度以降に千葉県の高速道路を使った走行中無線給電の実証実験に参画する計画だ。
EV普及の課題とワイヤレス給電の可能性
EVは、エンジンによる振動や騒音がなく、走行中に二酸化炭素を排出しない環境配慮型車両として中長期的な普及が見込まれている。しかし、多くのドライバーが充電の手間を懸念している。日本自動車工業会の2025年度乗用車市場動向調査では、EV購入の障壁として「1回の充電での走行距離が短い」「充電に時間がかかる」といった点が挙げられた。
走行中の無線給電が実現すれば、こうしたEVの弱点を克服できる可能性がある。ただし、普及に向けた課題は送電装置の設置負担だ。道路や駐車場に給電インフラを整備するには初期投資と工事期間が必要であり、対応車両の利用が増えなければ投資コストの回収が難しい。
名鉄NX運輸の実証実験に参加する三菱総合研究所の丹羽正和氏は、「現場のニーズに向き合い、産学官が連携して事業性の検討を進める必要がある」と指摘している。



