東レ、グリーン水素事業を本格化 独自技術で市場開拓へ
東レは、再生可能エネルギーに由来する「グリーン水素」の関連事業を強化している。同社は製造装置の中核となる電解質膜を独自に開発し、量産体制を整備。今後は生産体制の拡大も視野に入れ、脱炭素社会の実現に向けた次世代エネルギー市場での存在感を高めていく方針だ。
燃料電池技術を転用 15年の研究が実を結ぶ
グリーン水素は、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーによる電気で水を分解して製造される。この過程で二酸化炭素を排出しないため、環境負荷の低いエネルギー源として期待が集まっている。製造技術の一つである「固体高分子膜型」では、電解質膜が重要な役割を果たす。
東レは2010年頃、燃料電池車の普及を見据えた開発プロジェクトの一環で、電解質膜の研究を開始。当時は米国企業のフッ素系製品が業界標準だったが、同社はポリマーの構成からデザインする全く新しい素材の開発に着手した。15年にわたる研究の末、炭化水素系の電解質膜を完成させた。
燃料電池車の普及は当初の想定ほど進まなかったものの、2020年頃から世界的にグリーン水素への関心が高まり、製造装置への転用が可能となった。これにより、東レは水素という新たな市場への参入を決断した。
安全性と効率性に優れた独自膜の特徴
東レの電解質膜の最大の強みは、低ガス透過性にある。水の電気分解では水素と酸素が発生するが、膜が気体を通しやすいと両者が混ざり、爆発のリスクが高まる。同社製の膜は、主流のフッ素系製品に比べてガス透過性が3分の1と低く、安全性と装置の稼働効率を大幅に向上させられる。
さらに、フッ素系よりも少ない電気で水素を製造可能で、環境面でも優位性を持つ。有害性が指摘される有機フッ素化合物への規制が強化される中、炭化水素を使用した東レの膜は影響を受けない点も大きな利点だ。
東レの豊崎貴之部門長は、「炭素繊維と同様、地道な研究の成果が花開いた」と語り、長年の取り組みが実を結んだことを強調している。
市場参入の課題と協業戦略
しかし、フッ素系がほぼ独占する市場への参入は容易ではない。製造装置内の他の部材との調整や運転方法の最適化など、様々な課題が残る。このため、東レはメーカーとの協業をカギと位置づけている。
具体的には、山梨県と東京電力ホールディングスと共同で事業会社を設立し、大規模な太陽光発電と水素製造を組み合わせた実証事業を推進。また、独シーメンス・エナジーやカナデビアに電解質膜を提供し、両社の製造装置の商品化を支援している。
昨年には、山梨県北杜市のサントリー天然水工場で、国内最大規模の水素供給プロジェクトが開始。シーメンス・エナジーの装置に東レの膜が採用され、実用化が着実に進んでいる。
地産地消型エネルギーとしての可能性
固体高分子膜型の水素製造装置は、電気の変動に対応しやすく、出力が不安定な再生可能エネルギーとの相性が良い。小型化も容易なため、地域の再生可能エネルギーと組み合わせた「地産地消」型のエネルギーシステムとしての活用が期待される。
一方で、触媒に希少金属を使用するため、世界的なインフレによるコスト上昇が逆風となっている。しかし、脱炭素が世界的な課題であることには変わりなく、将来的な成長が見込まれる分野だ。
東レは現在の量産体制に加え、新たな工場の建設を計画。需要動向を見極めながら最終判断を下す考えで、豊崎氏は「着実に実績を積み上げ、市場でしっかりとした地位を築きたい」と意気込みを語っている。



