スポーツジムから消防署へ講演の依頼が舞い込み、救急隊長である私にその役目が回ってきました。さて、どうしたものかと頭を悩ませました。実技指導なら自信があっても、いざ講演となると不安が募ります。思案を重ねた末、救急現場でバイスタンダー、つまり居合わせた人々の応急処置が、いかに救命効果を高めているかを伝える奏功事例の話をしようと決意しました。
準備万端で迎えた講演当日
資料を取り寄せ、入念に準備を整えて、その日を迎えました。会場には約50人の参加者が集まり、私は緊張しながらも話し始めました。自宅で倒れ、心肺停止に陥った父親に対し、小学生の息子が心臓マッサージを行い、見事に蘇生させた事例を語っている最中のことでした。突然、涙がこみ上げてきて、言葉が詰まってしまったのです。
小学生の勇気に心打たれた瞬間
父親を助けたい一心で、電話口から聞こえる119番担当者のアドバイスに従い、必死に心臓マッサージを続ける子どもの姿が鮮明に想像できたからです。その努力は、救急隊が到着するまで途切れることなく続けられていました。その光景を思い浮かべると、不覚にも涙で絶句してしまい、会場は一瞬、静寂に包まれました。
何とか気持ちを落ち着かせ、話を再開し、無事に講演を終えることができました。帰り際、依頼者から感謝の言葉を頂きましたが、参加者にどれだけ伝えられたか、内心では不安が残りました。あれから10年の歳月が流れましたが、この季節が訪れるたびに、泣き虫な私の気恥ずかしさと、あの小学生の見せた勇気を鮮明に思い出します。
須藤秀彦(66) 東京都足立区のこの体験は、応急処置の重要性と、人間の心の温かさを改めて感じさせる感動的なエピソードとして、今も私の胸に刻まれています。日常の中に潜む英雄的行為が、いかに尊いかを教えてくれる出来事でした。



