NHK新会長、受信料制度の強化と番組編成の見直しを表明
財政難が続くNHKが、受信料滞納者に対する民事手続きを強化している。支払っている人との公平負担の観点から放送法上の原則を貫く構えだが、受信料制度の是非や番組の範囲、再放送の多さに疑問を感じる視聴者も多い。1月に就任した井上樹彦会長に、様々な疑問を真正面から尋ねた。
受信料収入の大幅減、収支均衡達成に黄信号
NHKでは、2023年10月からの受信料1割値下げにより、2027年度までの4年間で1000億円の支出削減を余儀なくされ、現在は赤字予算を編成している。同年度で収支均衡に持ち込むことが最大の財政目標だ。しかし、2019年度末に過去最高の4212万件だった契約総数は、コロナ禍で戸別訪問がしにくくなったことや物価高の影響で減少し、2024年度末は4067万件と5年間で145万件減った。受信料収入も、2018年度の7122億円から2024年度末には5901億円にまで縮小しており、収支均衡達成が危ぶまれている。
放送法では、放送受信機器があれば、番組を見るかどうかに関わらず受信契約義務が課される。一方で、テレビを置いていない家庭や職場は契約対象外であり、契約件数はNHKの努力だけでは限界がある。幸いなことに、昨年9月末と12月末では契約総数が下がっておらず、テレビ撤去による解約も増加傾向にないという。
滞納者対策と契約の質の向上
自助努力で減らせるのが、契約を結びながら支払いを怠る滞納者の数だ。1年以上受信料を滞納している未収件数は、2019年度末の72万件から昨年9月末時点で177万件に膨張した。こうした滞納者に対しては、簡易裁判所を通じた支払い督促申し立てを2006年度から実施しているが、コロナ禍で戸別訪問が制限され、その後廃止したこともあり、申し立て件数は減少し、2024年度は125件にとどまっていた。
井上会長は「これまで契約確保に躍起になっていたが、その内実が伴っていなかった。いったん契約した人はNHKの番組を見る意思があるはずで、見ているはずだ。それなのに支払っていないなら、手をつけないわけにはいかない。契約を取ったら終わりという反省があり、フォローすることで契約数は変わらなくても収納額は増える。公平負担の観点から契約の質の強化をもっとやるべきだった」と説明する。
そこでNHKは昨年10月、「受信料特別対策センター」を設置し、12月末までに398件の支払い督促申し立てを行った。来年度は2000件超を目指す方針だ。注目すべきは、こうした毅然とした姿勢が視聴者心理に与えるアナウンス効果で、昨年11月の発表以降、滞納者の支払い再開が前年比ほぼ倍増している。
事業所への民事訴訟と新規契約獲得
昨秋以降の督促申し立ては一般家庭が中心だったが、滞納を続ける事業所は2024年度末で約2万件と5年間で倍増している。今後は事業所対策にも力を入れ、今月12日には福岡県と北海道のホテル運営会社に対し、民事訴訟を起こした。滞納事業所への民事訴訟は7年ぶりとなる。
民事手続きは、受信料制度の意義を説明しても理解してもらえない場合の最終手段だ。井上会長は「ほかのホテルには支払ってもらっているので、見過ごせない。確信的に支払わないところには措置を取らざるを得ず、事業所へのメッセージになれば」と語る。
NHKは滞納対策に加え、新規契約者の獲得も強化し、今年度末の受信料収入を5900億円と見込み、来年度予算では5910億円と増収に転じさせる計画だ。
受信料制度の意義とエンタメ番組の役割
受信料制度自体に疑問を感じる人も多いが、井上会長は「放送法は『豊かで良い放送』を行うのがNHKの役割と規定している。受信料は受信の対価ではなく、災害時や選挙報道など国民に伝えるべき放送を含む財源を公平に負担してもらうものだ。有料配信やスクランブル方式とは相いれない。この制度は最上で、独立性を保つ貴重な基盤だ」と強調する。
視聴者からは「報道や教育番組は理解できるが、ドラマやバラエティーまで受信料で制作する必要があるのか」との声もある。これに対し、井上会長は「ジャンルよりも、受信料に値するコンテンツかどうかが大事」と指摘。自身が政治記者として「日本報道協会」と思って働いてきたが、視聴者と接する中で、エンタメも文化遺産として重要だと気付いたという。
例えば東日本大震災の後、連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『八重の桜』が被災者の心を救った例を挙げ、「エンタメだからこそ、感情を取り戻して生きる気力が湧いてくる。それらも受信料制度で賄うに値するNHKの役割だ。ただし、民放と同じものになっていないか見極める必要がある」と述べた。
再放送の活用とコンテンツ制作の新基準
最近のNHKは、過去の人気放送回を流す再放送が多いが、井上会長は「再放送で『またか』ではなく『ありがたい』と言われるコンテンツを作りたい」と発想の転換を提案。映画のリピーターが多い例を挙げ、良いものは何回も見てもらえると指摘する。
ドラマ制作に関しては、「配信系と競争しているからレベルが上がっているが、洪水のように新作を作るのでなく、一本一本を大事に扱おう。大量生産、大量消費はやめ、BSで放送したものを地上波で放送するなど、コンテンツの扱い方を変えたい」と新たな基準を提言した。
今後の展望と視聴者理解の重要性
井上会長の方針を踏まえ、NHKの近未来像は2027~29年度経営計画の策定作業で議論される。公共メディアの大きな分岐点となる計画の行方が注目されるが、最も大切なのは、受信料を負担する視聴者の理解が得られるかどうかだ。
過去の不祥事時には特別番組が放送され、視聴者から多くの声が寄せられた。財政難で岐路に立たされた今、こうした番組の必要性について尋ねると、井上会長は「受信料への理解は特に重要。若い人たちはサブスクを対価とみる習慣がついている。制度の違いを説明し、理解を求める活動が重要になる」と述べた。公共メディアの信頼度が問われる中、実施の真価が試されよう。



