高田漣が語る父・高田渡と下北沢演劇の街 映画秘話と失踪
一昨年、サンフランシスコ在住の従姉妹が帰国した際、10代の従姪に観光先を尋ねると「下北沢」との答えが返ってきた。古着が大好きで、下北沢は憧れの場所だという。筆者も学生時代から同様の印象を持っていたが、時代の変化を感じずにはいられなかった。
筆者にとって、下北沢は演劇の街というイメージが強い。その理由の一つは、現在も自宅横の稽古場で毎朝のように朗読会を開くなど、精力的に活動を続ける柄本明さんの存在にある。そんな柄本さんと父・高田渡の友情が、映画『タカダワタル的』に結実した。
しかし、その映画の舞台裏は壮絶だった。冒頭、劇場「ザ・スズナリ」に父が入ってくるシーン。観客は違和感を覚えなかっただろうか。ライブ当日の開場時間中に演者が現れるのは稀である。実は父は前日、大阪からの新幹線移動中に楽器と映画クルーを残して失踪したのだ。映画では筆者が一人で会場に向かうシーンがあるが、本来は父の自宅から親子で向かうはずだった。よく見ると、舞台の演奏家たちも最初は張り詰めた不穏な空気である。その日、演奏はどうにか終えクランクアップとなったが、帰り道に父は再び失踪した。
映画は大変好評で、その一年後、同じスズナリでライブが予定されていた。共演者は旧友の井上陽水さん。しかしその直前、父はツアー中に亡くなった。帰れない人、帰らない人――高田渡は今もどこかを彷徨っている気がする。
(マルチ弦楽器奏者・執筆家)



