広島テレビのアナウンサー、森拓磨さん(47)が、自身初めての小説となる「スコアボード」(カンゼン、税込み1980円)を出版した。完成までに6年の歳月を要したこの作品は、1970年代の旧広島市民球場を舞台にしている。
物語は、スコアボードの得点係を命じられたプロ野球選手が、個性豊かな同僚たちと過ごす中で新たな境地にたどり着く青春群像劇である。主人公は、プロ球団「広島オイスターズ」の捕手・新田八宏。ドラフト3位で入団したものの、一軍と二軍を行き来する生活が続き、試合で結果を出せずにスコアボードの得点係へと回される。そこでは人力で選手名や得点の札を入れ替える作業があり、新田は同僚の「天満」や「スミレ」、同期の「皆実」らと関わる中で、選手としての自覚に目覚めていく。
森さんは「壁にぶつかった若者が、様々な人の助けや経験を経て成長していく姿を描きました。読んでスカッとしていただけるのではないでしょうか」と語る。
小説を書くきっかけは、広島東洋カープのエースだった黒田博樹さん(51)のノンフィクション(2017年出版)を執筆したことにある。事実をまとめるうちに、むしろ「こういうことがあったらいいな」と空想が広がったという。その想像の世界を表現しても面白いのではないかと考えた。
執筆は2018年初めに開始。約3年後に一度脱稿したが、知り合いの編集者に見せると「フィクションとしては物足りなく、わくわくしない」との指摘を受け、内容を大幅に書き換えた。助言も得て2023年秋にはほぼ現在の筋書きが完成した。森さんは「頭の中に絵で浮かんだシーンを書いても、読んでみるとイメージと違う。文章化が難しかった」と振り返る。
アナウンサーの仕事と両立させるため、1日に書く文字数を決めたり、1日1回は作品を保存したパソコンファイルを開くルールを設定。徒歩での通勤中に思いついたシーンや会話のやりとりは、信号待ちの間に携帯電話にメモした。
スコアボード内の場面を登場させたのは、子どもの頃の思い出からだ。福岡出身の森さんは、家族でたびたび旧市民球場を訪れていた。「スコアボードが開いていて、中の人が足を出して涼む様子を見て面白いなと思った」と回想する。
出版直後は、作品を読んでもらえるのかという不安がよぎった。しかし、同僚から「登場人物の誰々が好きになった」「読み終わりそうな時に『これで終わるんだ』と思うと寂しくなった」といった感想を聞き、力をもらったという。
「当時の広島や球場の空気感を懐かしく感じる方もいれば、新鮮に感じる方もいるでしょう」と森さん。既に新作の構想もあり、ファンタジー小説を書き始めている。



