孫喆八段、力不足を痛感した1年から再起を目指す
一力遼棋聖と芝野虎丸十段が激突する第50期棋聖戦七番勝負第5局が2日目午後の対局を再開した。現在の戦績は2勝2敗と拮抗しており、天王山とも呼ばれる重要な一戦となっている。この対局を日本棋院のYouTubeチャンネルで解説するのが、孫喆(そん・まこと)八段(30)だ。昨年は初めて七大タイトルの一つである本因坊戦の挑戦者決定戦に進出したものの、棋聖戦のAリーグから陥落し、他の棋戦でも苦戦を強いられた。孫八段は「力不足を痛感した1年だった」と振り返る。
妻の活躍に刺激を受け、自然体で夢を追う
そんな孫八段を支えているのが、妻であり囲碁棋士の星合志保四段(28)の存在だ。星合四段は昨年、女性タイトル戦の番勝負で活躍し、その姿に孫八段は大きな刺激を受けたという。「気負わず、自然体で」という心持ちを大切にし、囲碁への情熱を燃やし続けている。2011年に入段した孫八段は、院生や低段時代には一力棋聖の好敵手として知られ、2018年の名人リーグ入りを果たして上位陣に名を連ねた。その後、各棋戦で活躍を続け、2022年には星合四段と結婚し、公私ともに充実した日々を送っている。
読みの精度の高さと近年の悩み
孫八段は早見え早打ちのスタイルと、読みの精度の高さで囲碁界に名を馳せてきた。しかし、近年は悩みを抱えているという。「形勢が悪くなった時、何もできずに負けることが多くなった。トップ棋士は非勢でも粘り強く戦い、少ない好機を確実にものにしている」と語る。昨年の成績は19勝16敗で、タイトル戦の大舞台に迫る棋士としては物足りなさを感じている。「勝ちだと思った局面から逆転されることが増えた。以前なら勝ちきれたのかな」と、気持ちの焦りが見える。
自信のなさと妻からのエール
孫八段は「自分に自信を持ったことがない」と打ち明ける。クールで優しい性格は妻も認めるところだが、星合四段は「もうちょっと自信を持っていいと思う」とエールを送る。「周りを強いと思いすぎているのかもしれない。昔ほどの覇気が感じられない」と、夫にハッパを掛けている。孫八段自身も「周りに合わせる方が得意」と語るが、妻の活躍には大きな刺激を受けている。
AI活用と生活改善で新たな一歩
星合四段はNHK杯テレビ囲碁トーナメント戦で9年にわたり読み上げ係や司会を務め、普及活動にも力を入れてきた。昨年からは対局に重心を置くことを宣言し、その姿勢が孫八段にも影響を与えている。かつてはAI(人工知能)の研究利用が限定的だった孫八段だが、昨年4月、妻の希望でAIをより活用するためにパソコンを購入。今では「もっと早く買えば良かった」と、AIの有用性と妻の先見性を実感している。また、夜更かしをやめ、早寝早起きの生活に変えるなど、生活面でも改善を図っている。
夫婦で高め合う勝負の道
星合四段は昨年、藤沢里菜女流本因坊に挑戦し、フルセットの激闘の末に惜敗した。孫八段は妻の実力向上を感じており、「囲碁界では決して若いと言えない年代にも関わらず、囲碁への向かい方を大きく変えて結果につなげたことはすごい。僕自身、引っ張ってもらっている」と語る。一方、星合四段は「夫は表では澄ましているが、自宅では負けた日の表情は暗い」と夫の心情を慮り、「満足な結果が出ず、手合を打つのが苦しい時期なのかなとも思う。結果よりも対局を楽しいと思えるようになればいいな」と願う。
タイトル戦への再挑戦を誓う
孫八段は「注目されるのは苦手だけど、タイトル戦の舞台にはうらやましさもある。もう1回、チャレンジしたい」と意欲を見せる。昨年の本因坊戦挑戦者決定戦での敗北に心残りがあるが、「AIのおかげで棋士の寿命は延びたと思う。勉強はいくらでも出来る。まだまだこれからだと信じている」と前向きだ。勝つことでしか自信を得られない勝負の世界で、夫婦二人三脚で互いを高め合いながら歩みを続けている。



