本屋大賞・朝井リョウが語る創作の極意「小説にならないかもなテーマでも、小説になるかも」
本屋大賞・朝井リョウ「小説にならないかもなテーマでも小説になるかも」

本屋大賞に輝いた朝井リョウさんの現在地

アイドルへの熱狂に翻弄される現代を描いた作家・朝井リョウさん(37)の最新作『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)が、2026年の本屋大賞を受賞し、累計発行部数50万部を突破した。現代の若者の孤独や社会の歪みを鋭く捉えてきた朝井さんは、書き手としても読み手としても「極端」を大切にしてきたという。

書くことで守られる感覚

インタビューで朝井さんは、シンガー・ソングライター吉澤嘉代子さんの楽曲「一角獣」の一節を口にした。「読みかけの本があるうちは守られている気がしていた」――この歌詞について、「本を読んでいる間は、その行為の中にいられる喜びがある」と語る。

書くことにも同じ感覚があるという。小学6年生で新人賞に応募し始め、『桐島、部活やめるってよ』でデビューしたのは大学在学中の20歳。以来、途切れることなく書き続けてきた。「取り組んでいるものがある時点で、かなり守られている感じがある」と述べ、長編を仕上げるまでの半年や1年、どれだけ物語の展開に悩んでいてもその感覚は変わらないという。

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デビューから15年以上が経ち、創作に向かう心持ちは少し変化した。「小説にならないかもな、と思うようなテーマでも、小説になるかもって思えている」と語る。『イン・ザ・メガチャーチ』では、人を熱狂の渦に巻き込む「推し活」を中心に据え、中年男性の孤独やファン心理が巧みに煽られ変貌する姿を描き出した。

ジャンルレスな憧れ

この題材が小説になるんだという体験をさせてくれるのは、いつも吉田修一さんだったと朝井さんは振り返る。『パレード』は、2LDKのマンションで奇妙な同居生活を送る大学生たちをそれぞれの視点から追う作品。自身もデビュー前の大学生だった時に出会い、「圧倒的なわからなさが真ん中にある小説にそれまであまり触れたことがなかった」と衝撃を受けた。

同じ作家として「ジャンルレスなところがすごくうらやましい」と朝井さんは言う。『パレード』のような青春群像劇も、恋愛小説も自在に手がけ、講談を思わせる語りを駆使した『国宝』のような小説まで打ち出す吉田作品に憧れる。また、精神的に支配する者と従属する者の関係を描いた『湖の女たち』にも驚いた。「すごい勇気。絶対伝わりづらい話なのに」と語る。

人間の描き方を模索

前作『正欲』では、周囲に理解されない欲望を抱えた人々を通して「多様性」の意味を揺るがし、『生殖記』では前代未聞の視点から人間社会を相対化した。『イン・ザ・メガチャーチ』では「人の行動力が集中している」推し活を凝視し、人を強烈に突き動かすものは何かを模索した。

「本当にわかってもらえるか、あまり気にしなくなってきて。完成させてみて、どうなるかは神のみぞ知るという気持ちです」と朝井さん。こんな感情を紙の上に引きずり出してよいものか、書いている自分でも不安になる「極端」な小説を、全国の書店員たちは最も売りたい本屋大賞に押し上げた。思わぬ後押しに戸惑いもあったが、ノミネート作を見れば他の作家たちの「極端」がそろっていたという。

受賞スピーチでは「自分が絶対書かない作品、書けない作品の隣に並べてくれているから、自分の偏りを大事にできる」と力を込めた。次に何をするかわからない作家でありたいと願い、「次に書く予定の長編も、なんでお金を払ってこんな気持ちにさせられなきゃいけないんだろう、と読者は思うかも」と語る。

読むことによって、書くことによって守られ、歩みは続いていく。

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