「萎縮せず」「事件の記憶をどのように」 阪神支局襲撃から39年
「萎縮せず」「事件の記憶を」 阪神支局襲撃39年

朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)で1987年に発生した襲撃事件から39年となった3日、支局を訪れた多くの人々が、殺害された小尻知博記者(当時29)を悼み、現在の言論環境について思いを巡らせた。

「萎縮せず堂々と発信を」

西宮市の保育士、中山正樹さん(70)は「言論を暴力で封じようとする社会を子どもたちに経験させてはならない。その責務は我々にあると毎年この日に思います」と声を詰まらせた。日本が近年、世界の報道の自由度ランキングで60位台にとどまることについて、「国民の情報のよりどころはメディア。萎縮せず堂々と発信してほしい」と訴えた。

大阪府の元吹田市議、島晃さん(70)は、米トランプ政権などメディアへの圧力を強める動きを念頭に、「世界で言論の自由を脅かすような出来事や政治家の言動が増えた」と危機感を抱く。「立場の異なる人たちの言葉を封じることがあってはならない」と力を込めた。

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若い世代の思い

若い世代の姿も見られた。大阪府東大阪市から友人と3人で訪れた大学3年の扶川(ふかわ)ほのかさん(20)は記者を志望しているという。「SNS上で様々な対立を見ていると、同じような事件は現代でも起こりうると思う。社会には様々な考え方の人がいるので、自分と異なる意見でも受け止める気持ちを大事にしたい」と語った。

事件の風化を懸念

事件の記憶が薄れることを心配する声もあった。撃たれた犬飼兵衛記者の応急手当てをした西宮渡辺病院の名誉院長、佐々木健陽さん(71)は「言論を暴力で封じてはいけないことは、教育を通じて伝えていくしかない」と考える。一緒に処置をした当時の院長や副院長は亡くなり、「事件の記憶をどのように社会にとどめていくかが重要だ」と話した。

小尻記者は生前、捨てられた釣り糸で多くのハトが傷ついている問題を報じた。記事をきっかけに発足した「釣り糸から野鳥を守る会」の元代表、吉川恵子さん(68)は最近、事件に関する取材を受ける機会が減り、「年々風化している」と感じている。若い記者らに事件を伝えたい気持ちがあるといい、「人権や言論の自由を守ってほしい」と呼びかけた。

「5・3集会」で安田菜津紀さん講演

支局近くの西宮市立勤労会館では「5・3集会『朝日新聞阪神支局襲撃事件』を忘れない」と題した集会が開かれ、256人が参加した。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが「共に生きるとは何か~難民の声、家族の歴史から考えた多様性~」をテーマに講演した。

集会は2007年以降、同市職員労働組合などで作る「平和と民主主義を進める西宮・芦屋の会」が開いている。事件があった1987年生まれという安田さんは冒頭、「ジャーナリズムに対する不当な弾圧が民主主義をゆがめてしまう」と語った。

シリアやパレスチナで撮影した写真を示し、「差別やヘイトスピーチが身体的な暴力や虐殺へとつながっていく。表現の自由があるからこそ、おかしいことにノーと言える。自由をどう使っていくのかが問われている」と話した。

参加した西宮市の会社員、小関直輝さん(53)は「差別や言論統制が、戦争と地続きのもので、日本はどの位置にあるのかと考えさせられた」と話した。芦屋市の女性(78)は「世界中で戦争が当たり前になっているような怖さを感じる。言論の自由の大切さをしみじみ感じた」と語った。

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