見知らぬ外国人とオンラインでつながり、自国や趣味について語り合う。相手がドイツ人ならドイツ語で、エジプト人ならアラビア語で。変幻自在に言語を操る神業で人気を博すのが、Kazu Languages(カズ・ランゲージズ)さん(26)だ。動画サイト「ユーチューブ」のチャンネル登録者数は現在150万人。昨年は大相撲元横綱・白鵬翔さんとモンゴル語でのやりとりを披露した。言葉を学ぶ意義について聞いた。(出来田敬司)写真・板津亮兵
ユーチューブチャンネルの内容
「OmeTV」という相手の顔が見えるアプリを使い、ランダムにつながった人々と会話を配信。最初は英語で話すが、相手の母語に合わせて切り替える。アフリカのリンガラ語やインドのヒンディー語を話すこともあり、相手は驚き喜ぶ。
習得言語数と動機
日常会話が可能なのは15言語。英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ドイツ語、ロシア語、ポーランド語、トルコ語、韓国語、中国語、タイ語、オランダ語、イタリア語、アラビア語、インドネシア語。外国語のみで日本語は含まない。平易なやりとりなら60以上の言語に対応。5歳の時に愛知万博(2005年)で見慣れない文字や展示に触れ、多様な世界に興味を持った。小学生でマイケル・ジャクソンの歌を聴き、海外志向が強まった。
英語教育と語学学習
小学5年から英語の授業があったが、十分なカリキュラムではなく、中学でも文法・読解中心で会話の機会は乏しかった。実際に言葉を使ってコミュニケーションを取ることに楽しさを感じるため、授業には面白さを見いだせなかった。
最初に学んだのはスペイン語。プエルトリコや中南米の音楽に惹かれ、歌詞の意味を知りたいと思った。2019年に大学の交換留学でスペイン・タラゴナに滞在。日本人のいない環境が語学習得に良いと考え、主要都市ではない町を選んだ。留学前に勉強していたが、現地の会話はほとんど聞き取れなかった。しかし現地の人と親しくなるにつれ、徐々に慣れて聞き取れるようになった。バルセロナ観光でスペイン語を話すと相手が喜び、距離が縮まるのを実感した。
独学と学習法
他の言語はユーチューブや語学アプリでほぼ独学。フランス語はスペイン語との類似点から、次にアラビア語に挑戦。スペイン留学中に訪れたモロッコでイスラム教の礼拝時に流れる「アザーン」に心を打たれ、日本語と全く異なる言語だと感じた。その後、インドネシア語、ロシア語と学んだ。
「聞く」「話す」「読む」「書く」の中では「聞く」が最も重要と考える。まず耳を慣らし、話す場面を想像して口に出し、繰り返す。読み書きで表現の幅を広げる。動画では会話中心だが、読み書きの練習時間の方が長い。
AI時代の言語学習
生成AIの発達で外国語習得の必要性を問う声もあるが、カズさんは「言語は情報伝達手段だけでなく、相手との距離を縮め、信頼関係を築き、物の見方を変える力がある」と語る。自分の口で伝えることに意味があり、言葉の空気感や文化を深く体験するには言語学習が欠かせない。AIは補助ツールとして有効だが、学習の意義を薄めるものではない。
印象的な出来事
2年前、東京で動画撮影中に日本在住のパキスタン人男性に道を尋ねられた。困った様子だったが、ウルドゥー語で話しかけると涙を浮かべて喜んだ。母語で話しかけられた安堵感があったのだろう。言語の大きな力を実感した。
外国語を話すメリット
相手への先入観をなくせる。国籍や人種の枠組みではなく、一人の人間として捉えられるようになり、偏見や思い込みが薄れる。視聴者から「ある国の人への印象が変わった」と言われることが喜びであり、活動を続けて良かったと感じる。
多言語話者へのアドバイス
間違いを恐れず、完璧を目指し過ぎないことが大切。短期間で一気に習得しようとせず、日常生活に組み込みながら少しずつ育てる気持ちで向き合う。習得後も維持は難しく、毎日十数言語に触れるのは困難だが、少しの時間でも触れて感覚を取り戻すようにしている。
今後の目標
外国語を学ぶ楽しさを伝え、言語を通して世界の架け橋となり、偏りのない視点で動画を作ることが大きな目標。次に学びたいのはルーマニア語。ラテンとスラブの要素が融合した魅力的な言語だ。
2000年、名古屋市生まれ。大学在学中にスペイン留学でスペイン語を習得。以降、様々な言語を身に付ける。2022年から世界各国の人とオンライン会話や街角で母語で話しかける動画を配信し、国内外で人気。韓国の音楽グループ「GOT7」のジャクソン・ワンさんに中国語や韓国語でインタビューしたことが話題に。クーリエ・ジャポン(講談社)の「2025年に世界が注目した日本人100」に選出。著書に「ゼロから12カ国語マスターした私の最強の外国語習得法」(SBクリエイティブ)。
インタビューを終えて:口をあんぐり開けたり、目を見開いたり、口を押さえて倒れ込む人もいる。カズさんの動画の見どころは、言語を変えた瞬間の相手の驚き。自分が多言語を話せなくても、つい「どうだ、すごいだろう」と思ってしまう。筆者は外国語に挑戦しては挫折を繰り返し、五十の手習いでNHKラジオ講座を聞いている。



