水俣病公式確認70年、胎児性患者の実態を世界へ 板井八重子医師のルポ英訳出版
水俣病70年、胎児性患者の実態を世界へ 板井医師ルポ英訳 (24.03.2026)

水俣病公式確認70年、胎児性患者の実態を世界へ発信 板井八重子医師のルポ英訳出版

水俣病の公式確認から5月1日で70年を迎えるのを前に、原因物質であるメチル水銀が流産や死産に及ぼした影響を研究してきた熊本市の医師、板井八重子さん(78)の歩みを紹介したルポルタージュが英訳され、出版された。板井さんは「胎児性患者や生まれなかった命のことを世界中の人に知ってほしい」と述べ、国内外への啓発活動への期待を語っている。

胎児性患者の重い症状と板井医師の研究

水俣病の胎児性患者は、母親の胎内でメチル水銀の影響を受け、脳神経などが傷ついた状態で生まれる。その結果、言葉をうまく話せなかったり、歩けなかったりするなど、重い症状に苦しむ人が多い。

板井さんは熊本大学医学部を1973年に卒業し、1975年から約17年間、水俣病の医療拠点となった水俣診療所(現・水俣協立病院)で内科医として勤務した。命の誕生を見つめながら、劇症型患者が多発した地域を中心に母親の妊娠について調査を実施。流産や死産といった異常妊娠が多いことを突き止め、その発生率の高さを統計的に証明した。この功績により、1993年に東京大学から学位を授与されている。

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日本語版の出版と映画をきっかけにした英訳プロジェクト

日本語版のルポルタージュは、公式確認50年となる2006年に出版された「水俣 胎児との約束―医師・板井八重子が受けとったいのちのメッセージ―」(矢吹紀人著)である。この本では、我が子を亡くした母親の苦悩や、生まれながらの障害と加齢で悪化する健康状態に立ち向かう胎児性患者の生活が詳細に記録されている。さらに、被害の拡大を防げなかった環境行政の在り方にも言及し、板井さんの半生や支援者の活動を全5章で描いた。

英訳を思い立ったきっかけは、2021年に全国上映された映画「MINAMATA」だった。この映画は、患者らの姿を撮り続けて発信した米国人写真家ユージン・スミス氏(1918~78年)を人気俳優のジョニー・デップさんが演じ、世界的な話題となった。映画が持つ発信力に触発された板井さんは、水俣協立病院での勤務歴がある米ワシントン在住の翻訳家、市原京子さん(65)らに「胎児との約束」の翻訳を相談した。

市原さんは、約30年前に渡米し、大学で生命倫理や国際保健を学んだ経験を持つ。ある時、米疾病対策センター(CDC)の講師が講義で、胎児性患者が母親に抱かれて入浴する姿を撮ったスミス氏の写真を取り上げ、学生が強い関心を示したことを鮮明に覚えていた。この経験から、「時を超え、空間を超え、異国の青年に影響を与えた。英訳すれば水俣病について分かってもらえる」と確信を持ったという。

プロジェクト結成と英訳版の完成

板井さんと市原さんは、胎児性患者らを支援する加藤タケ子さん(75)(熊本県水俣市)、水俣病関連の著作もあるライターの奥田みのりさん(東京都)の計4人で「プロジェクト 水俣を世界に」を結成。約3年をかけて英訳版を完成させ、胎児性患者らの日常を紹介した別冊も添付した。さらに、板井さんの直近の思いなどを加筆し、日本語版も改訂された。

タイトルでは「胎児(Unborn)」を示して「MINAMATA Promise to the Unborn」と表記し、本文では「先天性(congenital)」を強調するなど、米国でのなじみやすさを考慮した表現が工夫された。英訳本は2026年1月に出版され、電子書籍版も用意されており、世界各地から購入が可能となっている。

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板井さんは「生まれることができなかった子どもたちの悲しさと、産めなかった母親たちの無念。英訳本の出版で、犠牲を無駄にしないという約束の一つを果たせた気がする」と感慨を込めて語っている。本書はA5判、157ページで、1320円(税込み)で販売され、700部が自費出版された。問い合わせは一般社団法人「きぼう・未来・水俣」(0966・63・6741)へ。

公式確認70年を機にした啓発活動の展開

公式確認70年の節目に合わせ、今も解決に至っていない水俣病問題を広く知ってもらおうと、患者や支援者らでつくる「水俣病被害者・支援者連絡会」は様々な催しを予定している。

  • 連続シンポジウムでは、4月29日に患者・被害者団体が補償・救済策の現状などを報告。
  • 最終回の5月23日は大学教授や写真家らが講演し、参加者と水俣の未来を考える。
  • その他、水俣病がテーマの映画上映会(4月26日)、胎児性患者らによる写真と絵画、書道展(5月9~13日)、劇団「天然木」による創作劇(7月下旬)を計画している。

問い合わせは連絡会(0966・62・7502)へ。これらの活動を通じて、水俣病の教訓が国内外に広く伝えられることが期待されている。