オードリー若林、初小説で直木賞候補に アメフト青春物語「青天」
オードリー若林、初小説で直木賞候補 アメフト青春物語

オードリー若林、初小説で直木賞候補に

第175回直木賞の候補作が発表され、お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さんが手掛けた小説『青天(あおてん)』(文芸春秋)がノミネートされた。若林さんはこれまでに3作のエッセー集を出版しているが、小説の刊行は今回が初めて。自身が高校時代に熱中したアメリカンフットボールを題材にした青春小説で、異例の候補入りとして注目を集めている。

直木賞は、純文学の短編・中編を対象とする芥川賞とは異なり、エンターテインメント作品を顕彰する賞だ。作家を本職としない書き手の初小説がノミネートされるのは極めて珍しく、業界内外で話題となっている。他の候補作には、本屋大賞受賞作家の凪良ゆうさんによる『多類婚姻譚』や、山本周五郎賞に決まったばかりの蝉谷めぐ実さんの時代小説『見えるか保己一』など、人気作家の力作が並ぶ。(共同通信=平川翔)

「誰にも無視されない」主人公の思い

『青天』の主人公は「アリ」こと中村昴。総大三高のアメフト部に所属する高校生で、3年の春の大会で強豪校に完膚なきまでに叩きのめされる。一度は引退するが、ゲームセンターや雀荘で淀んだ日々を送るうちに、胸の奥に湧き上がる思いを抑えきれず、後輩たちのチームに再び合流する。

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アメフトの作戦やプレーの描写は細かく、ルールに詳しくない読者には難解に感じる部分もある。しかし、主人公がアメフトに感じる魅力が純粋で心を打つため、物語を問題なく楽しめる。「ボールのキャリーになった瞬間、注目が一身に注がれる。誰にも無視されない。この世界で俺が要注意人物になれる唯一の時間だ」という言葉が象徴的だ。

読者の多くは、主人公をテレビやラジオで活躍する若林さん自身と重ねて捉えるだろう。また、相方の春日俊彰さんを彷彿とさせるキャラクターも登場し、思わずにやりとさせる場面もある。

ぶつかることを描く意味

タイトルの「青天」は、作中で「アメフトにおいて、仰向けに倒されること」「最も屈辱的な状態」と説明される。しかし、それは立ち向かうべき相手と正面からぶつかった結果でもある。「言葉だけの世界だったら、いくらでも言い訳できるし、実際、する」「100万語の熱い言葉なんかより、一発ふっ飛ばす方がよっぽどモノを言う」という主人公の言葉が印象的だ。

時に暴力的なまでに「誰かとぶつかる」ことを描く本作は、他者との距離をうかがいながら慎重に人間関係を築くことが求められる現代に、若林さんが投げかける“コミュニケーション論”のようにも映る。アメフト部のミーティングで部員の奮起を促す主人公の言葉は、読者の心に深く残る。

90年代東京のリアリティー

作品の舞台は1990年代後半の東京。その空気感も印象的だ。作中の高校生たちはたばこを吸い、自分たちでピアスの穴を開けようとするなど、決して品行方正ではない。しかし、どの登場人物も現実の教室にいたようなリアリティーを持っている。

さらに、主人公の内面にリンクして引用される「THA BLUE HERB」や「餓鬼レンジャー」といった日本のヒップホップレジェンドたちのリリックが、物語を加速させる一役を買っている。ヒップホップファン(ヘッズ)の心情をくすぐる要素も満載だ。

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直木賞選考会は7月15日

直木賞の選考会は7月15日に行われ、夜には受賞作が決まる。他の候補作は、3度目のノミネートとなる朝倉かすみさんの『けんぐゎい』、デビュー以来多くの文学賞を受賞している蝉谷めぐ実さんの『見えるか保己一』、代表作『汝、星のごとく』の映画化が控える凪良ゆうさんの『多類婚姻譚』、『三千円の使いかた』がベストセラーとなった原田ひ香さんの『#台所のあるところ』の4作品。若林さんの初小説が、これらの強豪を抑えて受賞なるか、注目が集まる。