抹茶ブームの陰で広がる「抹茶ロンダリング」の懸念
世界的な抹茶ブームが続く中、日本茶業界の関係者たちが深刻な問題に頭を悩ませている。それは「抹茶ロンダリング」と呼ばれる現象だ。消費者を欺く可能性があるこの問題は、生産統計と輸出データの間に現れる奇妙な差として表面化している。
生産量と輸出量の明らかな不一致
2025年、日本から輸出された「粉末茶」の総量は8717トンに達した。この中には抹茶も含まれている。しかし、ここで注目すべき矛盾が生じている。抹茶の原料となる「てん茶」の2024年の国内生産量は、全国茶生産団体連合会の統計によると5336トンである。
てん茶から茎や葉脈を取り除いて粉末状の抹茶に加工する過程で、実際の抹茶生産量は約4200トン前後に収まると推定されている。てん茶への転作農家が増加しているため、2025年の抹茶生産量はさらに増える可能性はあるものの、国内消費も考慮すると、この数字は輸出される粉末茶の量を大きく下回っている。
業界関係者が指摘する「からくり」
「それは、てん茶以外の茶葉でつくった粉末茶だろう」と指摘するのは、京都府宇治市で4代続く茶問屋「桑原善助商店」の社長で、『抹茶の研究』などの著作がある桑原秀樹氏(76)だ。
業界団体である日本茶業中央会の定義によれば、抹茶はてん茶を石臼で挽いたものに限定される。しかし、現実にはあるからくりによって、定義上は抹茶と呼べない製品が「抹茶」として流通している可能性があるという。
海外で広がる「疑似抹茶」の実態
シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどり氏は、カンボジアでの体験を次のように語っている。「私がいま滞在しているカンボジアでも、抹茶ブームが来ています。そのほとんどは、ベトナムや中国から輸入された『抹茶』です。屋台で売られる抹茶ソーダや抹茶ラテは、毒々しい緑色ですが、みなさん、これが抹茶だと思って飲んでいます」
この発言は、国際市場において「抹茶」という名称が本来の定義から離れて使用されている実態を浮き彫りにしている。茶道の師範でもある小谷氏の指摘は、伝統的な抹茶の品質維持に対する懸念を反映している。
業界が直面する品質と定義の課題
抹茶ブームが世界的に拡大する中、日本茶業界は以下のような課題に直面している:
- てん茶以外の原料を使用した粉末茶が「抹茶」として流通する問題
- 国際市場における抹茶の定義の曖昧さ
- 消費者に対する正確な情報提供の必要性
- 伝統的な抹茶の品質とブランド価値の維持
2025年の粉末茶輸出量8717トンという数字は、日本茶産業にとって朗報である一方、その内訳についての透明性が求められている。業界関係者たちは、「消費者をだましていると言われかねない」状況を憂慮しており、適切な表示と品質管理の重要性を訴えている。
今後の展望と業界の対応
抹茶の需要が世界的に高まる中、日本茶業界は生産量の増加に努めている。てん茶への転作農家が増えていることは、本格的な抹茶の供給拡大につながる可能性がある。しかし同時に、以下の点が重要となる:
- 抹茶の正式な定義と表示基準の明確化
- 消費者に対する教育と情報提供の強化
- 国際的な品質基準の確立への取り組み
- 伝統的な製法と品質を守るための業界内の連携
抹茶ブームが日本茶産業に新たな機会をもたらす一方で、「抹茶ロンダリング」と呼ばれる問題は、業界の持続可能な成長にとって重要な課題となっている。関係者たちは、この現象が日本の抹茶のブランド価値を損なわないよう、慎重な対応を求められている。



