トラフグ養殖に革新、雄だけを生み出す技術で高級食材「白子」を安定生産
長崎県総合水産試験場(長崎市)の研究員らが、高級食材として知られるトラフグの白子(精巣)が大きく育つ特徴を持つ雄だけを生み出す画期的な技術を開発し、日本水産学会水産学技術賞を受賞した。この技術により、市場で高値で取引される白子を持つ雄を安定して養殖できるようになり、養殖業者の経営安定に大きく貢献している。
染色体操作とゲノム解析の融合で実現した技術革新
受賞したのは、同試験場魚類科の主任研究員である吉川壮太さん(42歳)と、県上五島水産業普及指導センター(新上五島町)の主任技師である浜崎将臣さん(51歳)。両氏は、長崎県内で盛んなトラフグ養殖業の課題解決に向け、東京大学や東京海洋大学との共同研究に取り組んできた。
浜崎さんは、トラフグの雌雄決定がXとYの染色体の組み合わせによることを利用し、Y染色体だけの細胞をクサフグの雌に移植する技術を開発。トラフグの雄と交配させることで、自然には生まれないYY染色体を持つ雄を作り出すことに成功した。この雄と通常の雌を交配させると、生まれてくる全てのトラフグが雄になることが確認された。
ただし、この技術には大きな課題があった。クサフグへの細胞移植は拒絶反応が出ない稚魚の時期に行う必要があり、体長わずか約3ミリの稚魚への移植作業は失敗が多かったという。浜崎さんは何度も試行錯誤を繰り返し、最終的に確実な方法を見つけ出した。
ゲノム解析で白子の大型化を実現
一方、吉川さんは養殖トラフグ約1000匹を対象にゲノム解析を実施。需要が高い12月頃に白子が大きく育つ個体の遺伝的特徴を特定することに成功した。同じ特徴を持つ個体で交配を続けた結果、当初は約70グラムだった白子が、3世代目には約170グラムと重量が2倍以上に増加した。
「トラフグは成熟まで2~3年かかるため、優秀な特徴を持つ個体が病気や事故で死なないよう飼育するのに苦労しました」と吉川さんは振り返る。成熟までの長い期間が研究の難しさを増していた。
技術の融合で養殖業に大きな経済効果
両氏の研究成果を組み合わせることで、白子が大きく育つ特徴を持つYY染色体の雄の育成に成功。現在はこの雄の精子を養殖業者に提供し、より効率的に白子が大きく育つトラフグの雄を養殖できる体制が整っている。
この技術で生産された養殖トラフグは、通常の単価より300円ほど高く取引されており、2023年の推定生産額は約6億5000万円に達している。長崎県内では長崎市や松浦市を中心にトラフグ養殖が盛んで、2023年の生産量は1083トンと国内生産量の約4割を占めるが、安価な輸入品の流入や生産コスト高騰などの課題を抱えていた。今回の技術開発はこうした課題解決にも寄与している。
社会実装が評価され、さらなる発展を目指す
日本水産学会水産学技術賞の受賞理由では、「科学的な裏付けを元に技術展開し、社会貢献度の高い応用研究」と高く評価された。2026年1月には、両氏が浦真樹副知事に受賞を報告する場も設けられた。
吉川さんは「先輩方から引き継いできた研究を形にすることができて良かった」と喜びを語り、浜崎さんは「研究結果が実際に社会に実装されたことが評価された。養殖業者の手取りを増やすことに貢献できてうれしい」と話した。
今後はさらに大きな白子を持つ雄の育成を目指すという。両氏は「長崎の養殖フグをもっと多くの人に知ってもらい、ブランド化していきたい」と意気込みを語っている。この技術革新が、日本の水産業全体に新たな可能性をもたらすことが期待される。



