高値仕入れのコメ在庫が積み上がる卸売業者、損切り回避へ粘り腰 農家は「しっぺ返し」懸念
コメ在庫積み上がり卸売業者が損切り回避へ粘り腰、農家は懸念

高値仕入れのコメ在庫が積み上がる卸売業者、損切り回避へ粘り腰 農家は「しっぺ返し」懸念

昨秋の過熱した集荷競争から半年が経過し、流通過程でコメの余剰在庫が増加する中、値崩れへの懸念が高まっている。しかし、小売価格はなかなか下がらず、静かに続く「令和の米騒動」の渦中で、生産から販売までの関係者たちが複雑な駆け引きを繰り広げている。

例年なら完売の時期に積み上がる玄米の山

千葉県山武市でコメ卸業も手がける農家の伊藤享兆さん(39)の貯蔵庫には、フレコン袋が積み上がっている。これは昨秋、1俵(60キロ)3万円超で仕入れた2025年産の玄米だ。例年なら遅くても2月には完売するが、今年は状況が異なる。「備蓄米や外国産の選択肢が多く、新米でも高すぎて売れなかった」と伊藤さんは説明する。

取引先のスーパーや飲食店からの値下げ要求には応じていない。高値で仕入れた在庫を安売りすれば、即座に赤字が確定してしまうためだ。「損切り」はまだ早いと判断している。

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二つの価格が存在するコメ市場の実態

伊藤さんがスマートフォンで確認しているのは、業者らが現物を取引する「スポット市場」の価格表だ。農業協同組合(JA)など集荷業者と卸売業者が直接交渉して決める「相対取引価格」に比べ、市場原理が働き、足元の需給が価格に反映されやすいスポット市場では、1俵2万円台まで急落している。

3月末の決算期を前に在庫を抱えきれず、「損切り」に迫られた業者があるとみられる。伊藤さんは、値下がりした安いコメをスポット市場で購入し、昨秋に高値で買ったコメと合わせることで「価格を薄め」、今年2月ごろからスーパーや飲食店に売り始めた。これにより、昨秋より16%安くなり、「売れ始めている」という。

同じ年に収穫した銘柄に二つの価格が存在する実態を利用した価格調整は少なくないが、「1俵で1万円の価格差を『薄める』のは今までにない」と伊藤さんは指摘する。

農林水産省のデータと業界の期待

農林水産省によると、2025年産の相対取引価格は、玄米60キロが前年の1.4倍の平均3万6310円となった。これは、JAなど集荷業者が農家に支払う前渡し金(概算金)や買い取り価格を競って引き上げたためだ。

高く買ったコメが余る中、「だぶついたコメをどう処理するか」が関係者の関心事となっている。複数の業者が、いかに損切りせず2025年産を売り切るかを思案している。

その視線は、備蓄米にも注がれる。昨年、コメ不足と高騰に対応するため政府は備蓄米を大量に放出した。JA関係者の中にも「買い戻して供給を抑え、値崩れを抑えてほしい」と、需給の調整弁として期待する声は根強い。

小売業者の消費者対応と価格競争

サプライチェーンの下流にある小売りは、消費者の求める価格に敏感にならざるを得ない。スーパーのベルク(埼玉県鶴ケ島市)は、卸売りと交渉の末、昨年10月は5キロ税込み5281円で販売していた秋田県産のあきたこまちを今年2月、同4201円に下げた。

バイヤーの片山彬さん(42)は「卸と協力して、精いっぱい消費者に応えているのが今の価格。競合店と比べても非常に競争力があるが、周りが値下げしたらまた考えないといけない」と話す。店内には、5キロ税別3000円台や4000円台のコメが並び、価格競争が激化している。

農家の苦悩と将来への懸念

高値で仕入れた在庫の出口を探る上流と、安値圧力のかかる下流がせめぎ合うコメ価格の現状。茨城県内の農家の男性は「JAや業者は昨年産をあれだけ高い値段で買えば、売れ残るのは分かっていたはず。今年は、そのしっぺ返しがくるのではないか」と苦々しく語った。

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需給バランスの崩壊が、農家の収入や今後の生産計画に影響を及ぼす可能性が高まっている。関係者たちは、慎重な在庫調整と価格戦略を続けながら、市場の安定を模索している。