創業90周年を迎えた名古屋の老舗パン店、中屋パンの歩み
名古屋市千種区今池に店を構える老舗パン店「中屋パン」が、このたび創業90周年という節目の年を迎えました。ふわっと口の中で溶けるような生地に、こしあんがたっぷり詰まった名物「あんドーナツ」で知られる同店は、地域の人々から長年にわたり深い愛情を注がれてきました。
戦災を乗り越え、焼きたてパンで新時代を切り開く
中屋パンは1936年、初代である平井博さんによって創業されました。当初、出身地である岡崎市中村町にちなみ「中村屋」とする予定でしたが、東京の有名店「新宿中村屋」が既に存在したため、「村」の字を除いて「中屋」と名付けられたという経緯があります。
しかし、1945年5月14日の名古屋空襲により店舗は全焼。戦後は焼け跡から再出発を果たします。1965年に店舗ビルが建設されると、それまで続けていた卸売りをやめ、焼きたてパンを店頭で販売するスタイルを名古屋でいち早く導入。この斬新な試みは大ヒットを記録し、地域に定着していきました。
3代目社長が受け継ぐ「街の小さなパン屋」の矜持
現在の3代目社長である平井成明さん(69)が運営を引き継いだのは10年前のことです。成明さんは当初、店を守らなければという使命感に駆られていましたが、ある日、高齢の常連客から「いつもおいしいパンを焼いてくれてありがとう」と声をかけられたことで心境に変化が訪れます。
「パン職人として最高の賛辞だと思い、うれしさがこみあげると同時に、街の小さなパン屋としてこつこつやっていくのが自分の仕事だと悟りました」と成明さんは振り返ります。
進化を続ける名物「あんドーナツ」と記念日の特別商品
初代が開発した名物のあんドーナツは、成明さんの代でさらなる進化を遂げました。生地との味のバランスを考慮し、以前より甘さを抑えたあんに改良。転勤で名古屋から離れた常連客が久しぶりに訪れ、「関西のどこにも似た味はなかった」と感激されたエピソードも残っています。
5年前の85周年はコロナ禍の真っただ中で、祝う気持ちにはなれなかったと成明さんは語ります。しかし、さまざまな逆境を乗り越え、今年3月18日に迎えた90回目の創業記念日には、「イチゴの名古屋あんぱん」を50個限定で販売。スタッフの発案で生まれたこの商品は、「イチゴと生クリームで紅白になってめでたい」という思いが込められています。
記念日には、色鮮やかなポスターがずらりと並ぶ店内が、パンを選ぶ客で溢れかえりました。
100周年への道のりと変わらぬ思い
100周年への抱負を尋ねると、成明さんは「あと10年も働けるかな」と高らかに笑いながらも、すぐに顔を引き締めて「やれるだけやるよ」と力を込めました。
「同じ場所でずっと続けてこられ、お客さんには感謝しかありません」と語る成明さん。創業90周年という節目を迎え、地域に親しまれた長い歴史をかみしめています。
パンがところ狭しと並ぶ店内で、あんドーナツを手にする平井成明さんの姿は、老舗パン店としての確かな歩みと、これからも続く未来への希望を感じさせます。



