熊本・五木村の観光拠点「渓流ヴィラITSUKI」、7年の歴史に幕
熊本県五木村の宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」が、3月31日の宿泊客をもって営業を終了した。2020年7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として国が計画する流水型ダムの水没予定地となったためで、村が「ダムによらない村づくり」の象徴として2019年に開業させた施設が、わずか7年でその役割を終えることになった。
豪雨災害を機に方針転換、ダム容認へ
施設は球磨川の支流・川辺川沿いに位置し、村が約6億円の事業費を投じて2019年4月に開業した。運営は民間会社が担い、計16人が宿泊可能な6棟を備え、地元食材を生かした食事を提供。1人1泊2万4000円からという高級感ある価格設定ながら、初年度には1880人が利用し、2021年度には2647人に達するなど、村の人口881人(2026年2月時点)を上回る人気施設となっていた。
夏場を中心にカヤックやSUP(スタンドアップパドルボード)などのアクティビティーも好評で、開業から2025年末までに1万3794人が訪問。観光資源が少ない村において、観光客誘致の重要な役割を果たしてきた。
常連客から惜しむ声、地域経済に与えた影響
閉鎖直前の3月14日にも多くの家族連れが訪れ、熊本市在住の医師夫婦は「季節ごとに変わる景色やおいしい料理が魅力で、なくなると聞いて気持ちが沈んだ」と口をそろえた。この夫婦は2019年に妻の誕生日祝いで初めて訪れて以来、20回以上利用する常連客だった。
施設の支配人は「豪雨の惨状を見ると、ダム建設は仕方ない判断だ」と語り、災害防止の観点からダム容認に転換した村の決断を理解を示している。一方で、地域の観光産業にとっては大きな損失となる。
半世紀にわたるダム問題の歴史
五木村では1966年、平常時から水をためる貯留型ダムの計画が浮上。村中心部が水没予定地となったことから反対運動が起こり、県を巻き込んだ交渉を経て、村は1996年に着工に同意した。しかし、その後計画は中止され、代わりに「ダムによらない村づくり」を掲げて観光施設の整備が進められた経緯がある。
2020年の九州豪雨では球磨川が氾濫し、甚大な被害が発生。これを機に治水対策の見直しが進み、流水型ダムの建設が再浮上。水没予定地となった「渓流ヴィラITSUKI」は、開業からわずか1年で方針変更を余儀なくされることになった。
7年間で地域の観光を支えてきた施設の閉鎖は、自然災害と地域開発の狭間で苦悩する地方自治体の現実を浮き彫りにしている。村は今後、ダム建設と並行して新たな地域振興策を模索することになるが、失われた観光資源の代替は容易ではない課題となろう。



